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日本はアジアの次の独裁国家になるのか?

★日本はアジアの次の独裁国家になるのか?

Bloomberg Viewという海外メディアに安倍政権の改憲の企てがめざす方向についての興味深いコメントが載っていた。書いたのはNoa Smithさん。ニューヨーク州立大学Stony Brook 校の准教授とある。たぶんアメリカのリベラル知識人の「最大公約数」的見解だろう。

こういう判断をする人たちがホワイトハウスに影響力を持つならば、安倍の暴走は「外圧」によって阻止される希望がある。著者は野党が自民党の対抗勢力としてほとんど役に立たないことについては言及しているが、日本のメディアの反権力的な機能については一語も費やしていない。話題にするだけ「無駄」だということを知っているのだろう。それにしても、天皇とホワイトハウスしか自民党の「革命」を止める実効的な勢力が存在しないというような時代を生きているうちに迎えることになるとは思ってもみなかった。

もとの記事はこちら。http://www.bloombergview.com/articles/2015-02-20/japan-s-constitutional-change-is-move-toward-autocracy

☆日本はアジアの次の独裁国家になるのか?: FEB 20, 2015   By Noah Smith

今年初め私は世界各国における政権の反自由主義的な動きと、人権軽視という心傷む傾向につい書いた。残念ながら、日本はこの危うい流れに追いつきつつある。これは奇妙な言いがかりに聞こえるかもしれない。というのは、安倍晋三首相はこれまでいくつかの自由主義な政策(女性労働者への平等な扱いの推進など)を実行してきており、移民受け容れにも前向きな姿勢を示してきたからである。日本社会は、全般的に見ると、過去数十年にわたって、より自由主義な方向に向かってきた。裁判員制度の導入もその一つだし、クラブにおける長年のダンス禁止も無効にされたのもその一つである。

しかし、こういったことは安倍の政党が日本国憲法を彼らの思い通りに変更した場合には、ほとんどが意味のないものになってしまうだろう。日本の自由民主党(現存するうちで最も実体と異なる党名をもつ政党の一つ)は戦後史のほぼ全時期、短期的な中断をはさんで、日本を支配し続けてきた。この政党の実質的な部分は哲学的にも、組織的にも、またしばしば遺伝学的にも、日本軍国主義時代の政治的支配者の流れを汲んでいる。それゆえに、当然ながら、アメリカ占領期に日本におしつけられた自由主義な価値観をこの党派はまったく内面化することがなかった。かつては少数派であったこの党派が、現在では自民党内の支配的な勢力となっている。

自民党は現在、アメリカが起草した憲法を廃棄し、代わりに自主憲法を制定しようとしている。自民党の改憲草案は「現行憲法の条項のいくつかは自然権についての西欧的な理論に基づいており、そのような条項は変更されねばならない」と謳っている。この考えに基づいて、自民党改憲草案では、国は「公益及び公の秩序に違背する場合」には、言論の自由、表現の自由を規制することができるとされている。また、宗教集団に国家が「政治的権威」を賦与することを禁じた条項も廃絶される。つまり、政教分離原則が放棄されるのである。

さらに悪いことに、草案は国民が従うべき六つの「義務」をあらたに付け加えた。「憲法擁護義務」や家族扶養義務のようにあいまいで無害なものもあるが、「国家国旗に敬意を払う義務」を国民に求めるようなアメリカにおける保守派が推進している憲法修正と同趣旨のものもある。他の三つの「義務」はあきらかに反自由主義と独裁制を目指している。

「国民は責任と義務は自由と権利の代償であるということを自覚せねばならない」「国民は公益および公の秩序に従わねばならない」「国民は緊急事態においては国家あるいはその下部機構の命令に従わねばならない」これは中国やロシアであれば憲法に書かれていてもおかしくないだろうし、「緊急事態」についての条項は、多くの中東諸国で弾圧のために利用されている正当化の論拠と同じものを感じさせる。

残念ながら、この自民党改憲草案のきわめて反自由主義的な本質は欧米ではほとんど注目されていない。欧米の人々は改憲というのは日本国憲法の一部、軍隊を保有することを禁じた現行憲法九条の改定のことだと思っているからである。自民党改憲草案が九条廃絶をめざすのは事実だし、九条廃絶が安倍の改憲の主要な目的であることも事実である。けれども、われわれががこの問題を非武装という論点にだけ焦点を合わて見るのは、重要な論点から目をそらせることになる。

たしかに、九条廃絶はデリケートな問題である。日本はすでに軍隊を保有している(名前は「自衛隊」だが)。そして、九条の非武装条項はかなりゆるく解釈されているから、ここで九条を廃絶してみても事態はほとんど変わらない。憲法が改定されたからと言って、日本が他国に侵略を始めるということはほとんど考えられない。日本はただ、その事実上の軍隊をふつうに軍隊と呼ぶようになるというだけの話である。

しかし、九条問題に気を取られていると、われわれは自民党草案が日本国民の自由にどのような打撃を与えることになるのかを見落としてしまう。日本国民はもちろん反自由主義的な国で暮らすことを望んではいない。日本国民の80%以上は安倍政権が最近採決した「特定秘密保護法」に反対したし、憲法改定手続きを容易にする自民党の企てにも反対した。日本国民は過去70年間きわめて自由な空気の中で生きてきた。それがもともとは外国勢力によって与えられた自由であったにせよ、それを享受してきたことに変わりはない。

われわれが危険だと思うのは、日本国民が彼ら自身の自由をみずから進んで手放すように欺かれているように見えることである。 欧米のジャーナリストと同じように、日本国民もまた九条の廃絶だけに論点を絞り過ぎたせいで、改憲草案が人権を「義務」に置き換えるためのものだということに気づいていない。日本の野党が弱く、分断され、統治能力がないこと、それに比べて安倍政権は経済再生の最後の希望であるということで許される話ではない。まずもう少し冷静になってみよう。憲法は所詮は一片の紙切れに過ぎない。すべての国がアメリカのように自分たちの憲法を杓子定規に守っているわけでもない。

日本の指導者たちが非自由主義的な国家を作り出そうとすれば、アメリカが1947年に書いた憲法には彼らを引き止める力はないだろう。事実、自民党内の歴史修正主義者たちは自分たちの改憲草案をこの国の「ほんとうの」法律だと暗黙のうちにみなしている。改憲草案のすべてが非自由主義的というわけではない。性別、人種、宗教的な理由による差別の禁止は原稿憲法のまま残されるし、健常者障害者の差別禁止にまで拡大されている。
しかし、自民党の新しい憲法には真に危険なものが含まれている。

第一に、これが自民党による市民社会抑圧の企ての一部だということである。この動きは経済の低迷と福島原発事故の後、一層物騒なものになってきている。特定秘密保護法とその他の出版の自由に対する弾圧はその危険を知らせる徴候である。国境なきジャーナリストが発表した報道の自由ランキングで、日本は2010年の10位から2015年には61位にまで転落した。

第二は自民党改憲草案を採択した場合、それが国際社会にもたらすマイナスの影響である。もし日本がトルコやハンガリーのような非自由主義的な民主政体に向かって舵を切った場合、それはアジア地域において日本がこれまで保持してきた、中国という抑圧的な国家の対抗軸としての特性を打ち消すことになるだろう。その結果、日米同盟も弱体化する。日米両国はこれまで価値観の共有によって一体化してきたわけだが、それが失われるからである。これから先、アメリカは非自由主義的な中国と、かなり非自由主義的な日本の双方に対して、これまで以上に中立的な立場を採択することになるだろう。

日本にとっての最適解はたぶん九条を廃絶して、残りの条項は手つかずに残すことである。しかし、このトリックが政治的に何を意味するかはすぐ見破られるだろう。自民党が九条に手を着けた場合、どのようなやり方でそれを成し遂げようと、それは独裁主義的な「義務」と人権の弱体化に向かうドアを開くことに変わりはないからである。

だから、日本にとって現実的な最良の解は現行憲法にはいろいろ瑕疵があるが、その改定をできるだけ先送りして、いまだに1940年代のマインドをとどめているような人々が政権の座にとどまり続ける日が終わるのを待つことである。日本はいま歴史的な転換点に立っている。日本にはこれまで以上に自由主義的な社会になる可能性もあるし、これまでよりずっと自由主義的でない社会になる可能性もある。より自由主義的な社会をめざすことこそが賢明であり、かつ道徳的な選択である。

***「内田樹の研究室 2015-2/25」より転載

安倍政権が企図する歴史修正主義は日本にとって痛い結果をもたらすだろう

★またまたロイターの記事から

2月11日のロイター発の記事が日本政府の歴史問題についての広報活動が結果的に日本にとって痛い結果をもたらすだろうという観測を述べている。

アメリカの歴史家たちの声明に続いて、英米から安倍政権の歴史認識についての批判的なコメントが続いているが、日本のメディアは国際社会から安倍政権がどういう評価をされているかについてほとんど報道しない。こうやってSNSで手仕事をするしかない。こういう手立てがあるだけありがたいといえばありがたいけれど。日本のメディアに対する信頼が急落していることについて、もう少しメディア関係者は危機感を持って欲しい。

記事はここから。

日本の戦時下の行為についての偏見を訂正しようとする日本政府の運動が引き起こした騒動は、海外に友邦を創り出そうとする巨額のPR活動の積極的なメッセージを台無しにするリスクがある。PRの予算規模は5億ドルを超えるが、これは日本の戦前戦中における行為について、これまでのように謝罪一辺倒ではないスタンスを採り、日本の戦後の防衛政策に課された平和憲法の足かせを外そうとする安倍晋三首相の意を体したものである。

歴史問題だけがPRプログラムの唯一の焦点ではない。多くのファンドが「親日」国の開発のためのソフトパワー事業(大学における日本研究の支援、「日本ブランド」プロモートのための「ジャパン・ハウス」センターの設立など)のために投じられる。しかし、それと同時に日本政府は同時に海外の教科書出版社の日本の戦時下での行動についての記述などを日本のイメージに悪影響を与える不正確なものと見なしてこれを標的にしている。

このような試みに対してはすでに反撃が始まっている。

アメリカの19人の歴史学者たちが、日本政府がMcGraw-Hill社に対して「慰安婦」(戦時中に日本軍の売春宿で強制労働させられていた人々について日本で使われている呼称)に関する記述を改めるように要請したことに抗議して声明を発表した。記述変更の要請は却下された。 「われわれは第二次世界大戦中になされた蛮行を明るみに出すために働いてきた日本をはじめとする国々の多数の歴史家たちと立場を共にしている。われわれは過去から学ぶことで歴史を実践し、歴史を創り出す」と声明は語っている。この声明は米国歴史協会のニューズレターの3月号に掲載される。

「われわれはそれゆえに出版社や歴史家に対してその研究成果を政治目的のために変更するように圧力を加えてくる、国家や特定団体の企てに反対する。」 安倍自身はさらに積極的なPR攻勢をする方針を固めている。「穏健でいるだけでは国際社会において信認を受けることができない。われわれは必要とあらば論争を辞すべきではない」と彼は最近国会で述べた。

日本政府の動きは、アジア諸国とりわけ戦争の苦い記憶がまだ生々しい中国と南北朝鮮が第二次世界大戦終戦70周年を迎える敏感な時期に当たってなされている。十年にわたって広報活動予算を削減してきた日本の外務省は戦略的コミュニケーションのために700億円の予算(2014-15念の補正予算と四月から始まる次年度の当初予算)を組んだが、これは前年度の当初予算よりも200億円増額されている。

日本の多くの政治家と官僚たちは、日本が地域のライバル国である中国と韓国の積極的な広報外交によって圧倒されてきたことに不安を抱いている。 「多くの国々はこの分野に巨額の予算を投じているが、日本の予算は十分ではない」とある外務省の役人は述べている。保守派は予算増額を歓迎しているが、彼らのプライオリティは歴史についての誤謬訂正にある。「日本の歴史に対する多くの誤解や偏見を知ると、少なくとも記録を正すことはしたい」と櫻井よしこ(ジャーナリスト、保守派のシンクタンク国家基本問題研究所の理事長)は語る。 「われわれはすでに(情報戦で)敗北している。押し戻す必要がある」と彼女はロイターのインタビューの中で語った。

反撃の危険を察知して、外交官たちは「ジャパンハウス」センター(2016年にまずロンドン、ロサンゼルス、サンパウロに設立される予定)を日本政府の公的歴史観の宣布拠点にするようにという圧力を緩和しているように見られる。その代わりに、これらの機関を、ある官僚の言葉を借りれば、論争的なトピックについて例えばセミナーを開催するなどして「バランスのとれた議論の土台」とすることをめざしている。

しかし、保守派の政治家たちはより大胆なステップを望んでいる。

「まだやりたいことの半分もできていない。あらゆる手立てを通じて、われわれは日本の情報戦略を強化して、本当の意味で日本のどこがすばらしいのかを他国に適切に理解させることが必要である」と与党自民党の衆議院議員原田義昭(党のコミュニケーション戦略改善のための委員会の委員長)は語っている。専門家たちは歴史記述について変更を求める政府の努力は、日本の戦時中の問題に公的な焦点を当て続けることになり、意図とは逆効果を招くと見ている。

「歴史についての長い議論のうちに引きずり込まれた人々は結果的に日本について残虐な国という印象を抱いてしまうことになるだろう」とダートマス大学のJennifer Lind 教授は語る。「それこそ敗北だ。」

***「内田樹の研究室 2015-2/12」より転載
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