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平成28年7月20日 佐賀県知事定例記者会見

★平成28年7月20日 佐賀県知事定例記者会見
***「http://www.saga-chiji.jp/kaiken/20160720/  (原発関連)」より転載

○共同通信
 原発に関して伺いたいんですが、伊万里市の塚部市長が再稼働に反対の意向を示されましたが、その際に県と結んだ協定を準用して反対の意思を伝えると述べられましたが、知事は準用が可能だと思うかどうかというところと、また、可能でなくても、今後、九電自体が再稼働を年度内に目指すと述べられていますが、そうした迫っている中で、伊万里市の意向を聞くことというのはあるんでしょうか。
○知事
 まず、伊万里市が協定を準用してと言ったという今のお話、私もちらっと聞いたんですけれども、ちょっと意味がわからない。協定を準用するというのがどういうことを指しているのか。さっき事務方にも、どういう意味かと聞いたら、よくわからないということで。わかりますか。どういうことを指しているんだろう。
○共同通信
 自分の考えを補足しているんですが、その協定が、直接再稼働が含まれているわけではないけれども、それを準用というところで直接明示してはいないけれども、再稼働にあたっては、こういった協定を結んでいるから県に対して意向を伝えられると考えているんではないかなと。
○知事
 それは、意思を確認したいというか、それを準用と言うとは僕は思えないので。こういうことには根拠はすごく大事で、もちろん市長さんが反対という思いを持っているのは、それは受けとめますけれども、特に規定の問題は、それはそれとしてしっかり事務的にもちゃんとやったほうがいい、どういう趣旨でやっているのか整理したほうがいいと思います。私にはよくわからない。
○共同通信
 原発の再稼働に関して、同意権の部分で、知事は従来、国の考えを聞いた上でとおっしゃられていますが、現時点で知事の考えとしては、その30キロ圏の自治体に与えられるべきかどうかというのは。
○知事
 前から申し上げているように、審査が進む過程の中で、国から話があることになっていますから、その中で、我々としての意見も言いたいと思うし、もちろん伊万里市長がそういう意向だということも含めて、状況については説明をして、その上で考えていく、そして決めていくのは、国が責任を持ってやっていくことに変わりありません。
○共同通信
 先日の鹿児島県知事選で、三反園知事が新たに就任しましたけれども、8月に一時停止を申し入れると九電に対して述べられましたけれども、それに対して知事の受けとめはいかがでしょうか。
○知事
 私も報道を介してしかわからないですけれども、同じ九州電力なので、しっかり注目して、そういった対応も踏まえて、いろいろ考えていかなければいけないとは思っています。
○NHK
 原発のほうから1点、改めての質問なんですけれども、塚部市長が反対の意向を示されたということで、原発の30キロ圏をはじめ県内の自治体の合意形成を図っていく上で、伊万里市長の反対という発言が影響を及ぼすかどうかという点については、どういう今お考えなのかということをお願いします。
○知事
 (首長は)市町で20人いるわけですから、首長さんは政治家でもあるし、それぞれのお考えもお持ちだと思うので、どういう観点から、どういう思いで発言されたのかも大事だと思いますし、いずれ市町の首長さんの皆さんとは、こういった問題についても意見交換するタイミングは必ず来ると思うんです。それはどういう形になるのか、GMを使うのかどうかわかりませんけれども、そういった中で、よく話を聞いていくことはしていこうと思っています。
○NHK
 そうすると、いざ原子力規制委員会の審査が合格したときに、例えば、知事と玄海町長の判断で立地自治体として同意するわけではなくて、あくまでも一旦、県内の全ての自治体の首長さんの意見を聞く場を設けた上でという形になるという理解でよろしいんでしょうか。
○知事
 あらかじめどうあるべきと決める話じゃないと前から申し上げたように、審査が進んだ上で、向こうから話があったときに、我々としての考え方とかを説明して、その後の進め方も決めていきたいと思うし、それにあわせて、先ほどからお話があるように、鹿児島県が多分またいろんな動きをされると思うんです。そういったところもしっかり注目して、進め方も含めてよく考えていくという視点も必要かなと思っています。
○NHK
 ということですと、今のご発言というのは、あくまでも再稼働に向けての合意形成の手続とは別に、いわゆる意見の場は別として、県としては聞くということでも県内の20市町の首長の…。
○知事
 私はもともと選挙のときからいろいろ条件をつけた上で、再稼働について、方向性としては示しているんだけれども、その中で、これからいろんな情報が出てきて、原子力規制委員会に対しても、これも島崎さんか、元委員もいろいろお話をしたり、鹿児島県がいろいろ言ってきたりとか、いろいろ出てくる。市町の首長さんも意見があるだろうし、そういったことは幅広く聞いていく。鹿児島は委員会をつくると言っているのかな。佐賀県もこれから多くの関係の皆さん方から事情聴取することについては、そうやってあまり絞るんじゃなくて、本当に多くの方からいろんな垣根なしにいろんな話を聞いていきたいと思っています。

○毎日新聞
 原発の関連ですけれども、知事も島崎委員のお名前を出されましたけれども、鹿児島の知事にしても、熊本地震の影響を重視されているようですけれども、再稼働に対して、熊本地震の影響を改めてどういうふうにお考えか、教えてください。
○知事
 私も熊本地震は九州の地震でもあるので、気にしていたのですが、これに対して、原子力規制委員会の田中委員長は、熊本地震を受けて施設の点検をしなくていいのかということに関して、十分に安全審査をやっていますし、熊本の地震が起こった後も評価していますから、特に私どもからなにかするということはありませんと述べられています。ですから、こういったことで本当にいいのかどうかも含めて、これから鹿児島のほうでも焦点になっていくと思いますので、我々とするとそういったことをしっかりと注視していくことになります。

○読売新聞
 確認になるんですけれども、玄海原発の再稼働についての知事の姿勢について、改めて教えてください。
 あと、熊本地震に絡めてなんですけれども、県内にも断層が幾つかあって、唐津市にもありますけれども、玄海原発の安全性については保たれていると思われますでしょうか。
○知事
 それも含めて規制委員会が今審査していますから。断層は本当にどこにあるかを100%わかっているわけではなくて、だから、どんな断層が真下にあってもある程度対応できるという視点での精査が必要かなと思いますけれども、そういったことも含めて規制委員会が審査をしていただいておりますので、注視していくということだと思っています。
○読売新聞
 再稼働についての姿勢もお願いします。賛成か反対かというところ。
○知事
 ですから、私は安全・安心の観点から規制委員会の審査の状況を見守っていくと。そこが確認されていくことが必要だと思うし、規制委員会の審査に関しても、私は規制委員会を信じていますけれども、それでも常にチェックをかけていくという観点と、それから、今、県内のほうでもいろんなご意見もありますから、しっかりとヒアリングもしながら、そういう人たちと向かい合って、県民の意見をしっかりと尊重していく、県議会の議論もしっかり見据えていくということを踏まえた上で、その両点がオーケーとしたならば、再稼働に向けて私は方向性としては出していると思っています。

○共同通信
 原発再稼働に関して、県民とかのいろんな議論を注視して聞いていくことになると思うんですけれども、それでもし反対の声とかがかなり強まってきた場合は、知事の方針が変わる可能性もあるという理解でよろしいんでしょうか。
○知事
 県民の声というのは難しくて、私もいろんなところでこういった懸案について聞いているんですけれども、地域によっても濃淡があったり、そういったものをどう考えていくのかなという気持ちがあります。そういったことも含めて県議会の議論もあるんでしょうけれども。
 それと、特に原発に関して言うと、玄海原発はあるわけです。毎回申し上げているように、私も基本的に原発のない社会をつくろうという方向性には賛成で、そういった方向性を国の計画のほうでも示してもらいたい、もっと急いでほしいという思いはあるものの、今、佐賀県に立地している玄海原発とどう向かい合っていくのか、廃炉にしていくにしても、まだ40年以上かかる。これをどうやって適切に管理しながら依存度を減らしていくのかという観点をしっかりと考えて、それを受けとめて判断していく。それこそ、ないほうがよかやっかって思いますよね。でも、どうやってやるのが本当の県民の幸せにつながるんだろうかということを、これからの安全・安心、そういった管理も含めて考えていくと、この決断はぐっと、本当にすごく重いなと。だからこそ、しっかりとみんなでよく考えながら決めていくというプロセスも大事だと思っています。

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僕たちの貧困:55歳郵便配達員

★55歳郵便配達員に生活保護が必要な深刻理由~期間雇用社員を苦しめる正社員との賃金格差 ***「東洋経済オンライン BY  藤田 和恵 2016・07・21配信記事」より転載
 
 現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困にフォーカスしていく。

 7月中旬、神戸市内の郵便配達員、三田剛さん(55歳、仮名)に会った。期間雇用社員の三田さんの二の腕から先は早くも真っ黒に日焼けしていた。その日焼け具合は正社員となんら変わらない。が、待遇には天と地ほどの違いがある。

 たとえば昨秋、全国各地の社員たちが総出でこなした「マイナンバー通知カード」の配達。制度実施に先駆け、通知カードの入った簡易書留を全国約5400万世帯に一斉に配った。究極の個人情報の誤配は絶対に許されない。つねにない緊張感の下、社員らは通常の仕事をこなしながら、仕分けや住所確認などの作業に追われた。

 このとき、正社員には7万~8万円の手当が出たが、三田さんら非正規の期間雇用社員はゼロ。あまりの差別に「まったく同じ仕事をしてるのに、なんでやねん」とぼやく。

@正社員の新人教育も仕事のうち

 実際には「同じ仕事」どころではない。現在、三田さんはこの春に新卒で入社してきた正社員に「混合区」の配達方法を教えている。主に配達時刻が指定された速達や書留といった重要郵便物を配る混合区は、その都度、配達コースを工夫したり、配達中も臨機応変に道順を変えたりしなくてはならず、ここを任されるのは、社内でも担当区域に精通した優秀な配達員に限られる。業務用の住宅地図と首っ引きで指導をするのだといい、こうした新人教育はここ数年、彼の仕事のひとつにもなっている。

 また、取材で会った日は郵便物が少なく、正社員のほとんどが定刻より1時間早く退勤できる「時間休」という制度を利用して引き上げていった。しかし、三田さんにはそんな制度はない。夕方から1人営業に出掛けたと言い、「早速、(暑中見舞はがきの)“かもめ~る”の営業、1件取ってきましたで」と胸を張る。

 雇用更新を繰り返して勤続11年。混合区の配達も新人教育も任されるベテランだ。年賀はがきやかもめ~るなどの販売成績も局内トップクラス。しかし、年収は約350万円。正社員以上の働きをしているのに、年収は正社員に遠く及ばない。

 日本郵政によると、現在、日本郵政グループ4社(日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)の社員総数は約42万4000人で、このうち半分近い19万7000人が非正規の期間雇用社員。平均年収は正社員637万円に対し、期間雇用社員は232万円である。

 給与の違いだけではない。期間雇用社員には年末年始勤務手当も、住居手当も、夏期・冬期休暇も、結婚休暇も、扶養手当もない。ボーナスも平均月収のわずか0.3倍。病気休暇も正社員が有給で年間90~180日なのに対し、期間雇用社員は無給で年間10日が認められているだけ。ことほどさように福利厚生は、ないないづくしである。

 期間雇用社員の中には自ら短時間勤務を選び、比較的単純で責任の軽い仕事を任されている人もいるが、一方で三田さんのようにフルタイムで働き、残業もこなし、家計を支えている働き手も少なくない。取材するかぎり、一部の非正規労働者とはいえ、ここまで悪びれることなく、正社員と同様の仕事を担わせている職場にはあまり出合ったことがない。

 関西人らしいと言えばいいのか、三田さんはどんなときも「おいらの周りの正社員はみんなええ人やで。悪いのは会社やねん」と冗談めかして付け加えることを忘れない。それでも、ふと深刻な表情で「おカネの問題というよりは、心の安心の問題。いつもなんか(不測の事態が)あったら、どないしよという不安はあります」と漏らす。

@泣く泣く「自爆営業」する期間雇用社員も

 不合理な格差に加え、郵政の現場には「自爆営業」と呼ばれる習慣がある。社員一人ひとりに課された、年賀はがきや暑中見舞はがき「かもめ~る」、ゆうパック商品などの販売ノルマを、自腹を切って達成するのだ。

 2007年の郵政民営化前後、はがきなら多い人で1万枚超、ゆうパックは数十個単位のノルマはザラで、私は、国際郵便商品のノルマをこなすため韓国・ソウルのあるホテルに自分あての郵便物を送った後、自費でソウルまで飛んで受け取っていた職員や、ゆうパック商品十数万円分を自宅に持ち帰っては近所に配り歩いていた職員などのケースを数多く取材した。中には、「ノルマがこなせない」と母親に告げた後、自殺した職員もいた。

 当時、郵政側にコメントを求めると、決まってこんな答えが返ってきたものだ。

 「ノルマというものはない。ただ、営業目標はある。職員が自腹を切るような事例は把握していない。“自爆”という言葉が一部メディアで使われていることは知っているが、われわれとしてはそうした不適正営業はしないよう、各職場に通知している」

 現在は、当時ほどあからさまなノルマの強制はなくなったとも言われるが、今もそうした習慣がなくなったわけではないし、雇い止めの不安からやむなく自爆する期間雇用社員はいくらでもいる。自爆について、三田さんは「自慢やないけど、1回もしたことありません。その代わり人の倍は営業せんといかん」という。一方で同僚の期間雇用社員が上司から「このままの評価やったら、次(次回の更新)、わかってるやろな」「ゆうパック、いくつ買うねん」と迫られて泣く泣く自爆する姿は何度も見てきた。

 三田さんは、もともと食品卸売会社のトラック運転手だった。20年ほど前にこの会社が倒産したため、郵政省(当時)からの委託業務として、郵便物などの運送業務を一手に担っていた日本郵便逓送(日逓)に転職、ここでも正社員としてトラックのハンドルを握り続けたが、待っていたのは郵政省から郵便事業庁、日本郵政公社、日本郵政株式会社へと至る、一連の民営化に伴うすさまじい経費削減と合理化の嵐だった。

 郵政からの委託料は切り下げられ、競争入札の導入によって低価格で落札していく業者に次々と仕事を奪われた。これにより三田さんの収入は激減、正社員から時給900円の契約社員へと切り替えられ、ついに解雇されて途方に暮れていたところを、業務の発注元でもあった日本郵政公社(当時)に期間雇用社員として採用されたのだという。

@生活保護を受けざるを得なかった

 食品卸売会社時代に約500万円あった年収は日逓で約350万に下がり、期間雇用社員は手取り7万円からのスタートだった。当時、日逓といえば郵政省幹部らの天下り先として批判されたが、結局、郵政民営化によるしわ寄せをもろにくらったのは三田さんら現場で働く社員だったというわけだ。

 期間雇用社員になった当初は無遅刻、無欠勤、無事故、誤配もゼロという勤務を続けてもなかなか給与が上がらなかった。

 何より悔しいのは、上司から「アルバイトは安いから」という理由で残業を頼まれることだ。時間当たりの人件費が安い期間雇用社員が名指しで残業を命じられることは珍しくなく、上司に悪気はないのだろう。しかし、勤続10年を超えた今でも、アルバイト呼ばわりされることには、どうにも納得できない。

 三田さんは現在、毎月5万~10万円の生活保護を受けている。ヘルニアで長期入院をしたとき、見かねた知人から申請をするように言われたのがきっかけだった。子どもが5人いることに加え、中に障害のある子どもがいるため妻が外に働きに出ることが難しいといった事情もあり、申請はあっけないほど簡単に通ったという。急場をしのぐことはできたが、病院のベッドに横たわりながら複雑な気持ちにもなった。「おいらの給料では家族に最低限の生活もさせてやれんということなんやな」。 

 仲のよい子だくさん家族だが、「記憶にあるかぎり、家族旅行は行ったことないな」と笑う。食材は、妻が主に激安の業務用スーパーで買ってくると言い、毎日のように子どもたちに中国産の野菜やブラジル産の鶏肉を食べさせることには、正直、不安もある。

 そもそも、「同一労働同一賃金を目指す」と明言したのは、安倍晋三首相ではなかったか。現在、郵政では期間雇用社員11人がこうした格差の是正を求めて裁判を起こしている。有期雇用で働く人と、無期雇用で働く人の間で、不合理な差別をすることを禁じた労働契約法20条を拠り所にしたいわゆる「20条裁判」で、三田さんも原告のひとりである。

 一方、こうした動きに対抗したのかどうかは知らないが、日本郵政は2015年度から、新たな形態の正社員として、転居を伴う転勤はしないといった条件の「一般職」の採用を始めた。しかし、この一般職、福利厚生は現在の正社員並みになるが、基本給は低く抑えられており、中でも三田さんのようにキャリアが長く、比較的給与水準の高い期間雇用社員が転籍した場合、実質的な賃下げとなってしまう。

 要は「無期化、福利厚生あり、賃下げ」か、「不安定雇用、福利厚生なし、現在の給与」か。どちらかを選べというわけだ。しかし、一部の期間雇用社員たちは現在の給与水準を、正社員以上の頑張りと我慢で手に入れてきた。三田さんは一般職の採用試験を受けるつもりはない、という。

 今回、神戸市内の担当区域内にある居酒屋で話を聞いた。店内で、三田さんが別の居酒屋の女主人とあいさつを交わしていると、奥のほうから現れた恰幅のよい中年男性が「おつかれさん」と声をかけながら出て行った。「不動産会社の社長さんです。年賀はがきやかもめーるをぎょうさん買うてくれるお得意さんですねん」とうれしそうに教えてくれた。昔ながらの「街の郵便屋さん」は、営業も含めた仕事が大好きなのだな、と思う。

@子どもと孫には同じ思いをさせたくない

 三田さんは酒を一滴も飲めない。ウーロン茶のグラスを傾けながら、筆者に「定年も近い僕がどうして20条裁判に参加したかわかりますか」と聞いてきた。非正規労働者が実名で訴訟に参加することには不安もあるはずだ。答えを期待しているふうでもなかったので、沈黙で続きをうながすと、三田さんはこう続けた。

 「子どもや孫の世代に同じ思いはさせられんと、思ったんです。何も正社員にしてくれと言ってるわけじゃない。同じ責任で、同じ仕事をしてる。だったら、同じ人間として扱ってほしい」

 本連載「ボクらは「貧困強制社会」を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。

「改憲勢力衆参で3分の2超」をどう考えるべきか


★「改憲勢力衆参で3分の2超」をどう考えるべきか。〜参院選の結果を受けて〜
***「マガジン9 伊藤真のけんぽう手習い塾 第88回」より転載
 
先日7月10日に参院選の投開票が行われました。自民党は56議席、公明党は14議席を獲得し、安倍首相が勝敗ラインに設定した与党の改選過半数を大きく上回る結果となりました。憲法改正に前向きなおおさか維新の会は7議席を獲得し、同党などを加えた改憲勢力で参院の3分の2を上回ることになったと報道されています。これをどのように評価すべきでしょうか。

@憲法改正は争点となっていなかったのか

 従来、憲法改正について、安倍首相は年明けから「参院選でしっかり訴えていく」(1月の年頭会見)、「在任中に成し遂げたい」(3月の参院予算委員会)などと強い意欲を示してきました。しかし、参院選が近づくにつれて発言を控えはじめ、6月末には参院選での争点化はしないと明言しています。実際に、選挙演説でも、公約にもはっきりとは明示されませんでした。民進党、共産党などの野党は、正面から議論すべきだと批判していましたが、果たして今回の参院選で憲法改正は争点として位置づけられていなかったのでしょうか。
 自民党は、2013年に特定秘密保護法、2015年に安全保障関連法を公約に掲げず十分な議論を経ずに成立させたとこれまでも批判されてきました。しかし、2012年に公表された自民党憲法改正草案をみると、9条の2第4項「機密保持に関する法律」、9条の2第3項「国防軍は、……法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」と規定されています。つまり、既に4年前からこういう法律を作りますよと堂々と掲げており、改憲草案を自らのゴールとして、その中の法律を先取りして着実に立法化を進めてきただけといえます。ある意味、自民党は国民に示したとおりのことを「誠実」に進めているだけで、国民やメディアがそれに対して鈍感なだけだったといってよいのではないでしょうか。
 自民党改憲草案の前文をみると、「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する」と憲法制定の目的が書かれており、13条では「個人の尊重」を否定しています。つまり、一人ひとりを個人として尊重するよりも、国家を尊重することを明確にしています。そして、改憲草案前文の第3項をみると「我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、……活力ある経済活動を通じて国を成長させる」としており、国民の行うべきことは、国を成長させることだとはっきり書いてあります。GDP(国内総生産)600兆円を掲げるアベノミクスもその延長線上にあるといえます。要するに、一人ひとりの個人よりも、国家を尊重する国を造りたいと考えているのは明確です。
 このように、自民党は、既に国民に示した自らの目指す国づくりに向けて一歩一歩着実に進めているだけなのであって、今回明確に争点化されていたかどうかは、余り関係がありません。選挙は、結局、このような自民党の方向性に賛成か、反対かの意思表示であって、今回の結果を受けて、安倍首相が「国民が支持してくれた」として政策を進めていくのは当然でしょう。

@改憲勢力3分の2と憲法改正の蓋然性

 今回の参院選でいわゆる改憲勢力が3分の2を上回ったことから、憲法改正への動きがすぐさま現実のものとなるのではないかと不安を感じている方がいるかもしれません。しかし、改憲勢力が3分の2というだけではほとんど意味がありません。具体的にどの条文をどう変えるのかという案が出たとき、衆参で3分の2の賛成を得られるかどうかにこそポイントがあります。
 例えば、9条改正によって国防軍を創設することに対して、連立与党である公明党や、「命や平和」を是とする学会員がすんなり賛成するとはとても思えません。また、おおさか維新の会は、教育の無償化、憲法裁判所などを提唱しますが、自民党内でもその実現には大きく意見が分かれることになるでしょう。憲法改悪に反対する人たちは、改憲勢力が3分の2を超えたからといって落胆する必要はまったくありません。
 私たちは、改憲に賛成か反対かを対立軸としてとらえるのでなく、自民党のめざす国づくりに賛成か反対かが対立軸の本質であることをしっかりと意識しなければなりません。自民党改憲草案のように軍事的に強く豊かな国づくりを目指すのか、一人ひとりが個人として尊重される現行憲法の国づくりを目指すのかという対立軸を明確にすることが重要です。

@憲法改正における限界

 憲法改正といっても、憲法に規定されている改正手続きによってどのようにでも変えられるわけではないことは知っておいた方がよいでしょう。
 まず、改正が許されるところとそうでないところがあります。例えば、日本国憲法の国民主権を明治憲法の天皇主権にするような憲法の本質的な価値を変えることは、改正の限界を超え、許されません。それはもはや革命といえます。同じく、先の大戦の反省のもとに規定された現憲法の平和主義も改正手続きによってその本質を変えることはできません。
 次に、仮に発議された改正案については国民投票が必要になりますが、そもそも国民投票にふさわしくない事柄があると考えるべきだと思います。イギリスがEUから離脱するかを問うような国の政策に関するものであれば、国民投票によって国民の意思を問うてもよいでしょう。なぜなら、たとえ自分の意思に反した政策でも、予想に反して豊かになり、少数派の人が後で逆によかったと思えることは十分考えられるからです。
 しかし、個人の思想良心、宗教といった人間の内面にかかわる問題は、多数意思に基づいた結果を押し付けられて、その人が幸せになることはありえません。そのような領域の問題を国民投票にかけるべきではないのです。
 例えば、自民党改憲草案に規定されているような日の丸や君が代の尊重、天皇をいただく国家というものが国民投票にかけられたとして、それを多数から強制されて少数の人が幸せになるということはありえません。こういった価値観の根本にかかわることは、多数決によって押し付けることができない私的領域にかかわる部分なのであり、国家は立ち入れないものとして守ることが立憲主義の本質といえます。
 また、民主主義には、多数派による政策でも、うまくいかなかった場合少数派が選挙によって入れ替わるプロセスを経ることで是正されていくという重要な機能があります。しかし、改憲草案21条2項に規定されているような表現の自由の規制にかかわることを、多数意思で決定してしまうと少数派は反対の声も上げられなくなり、民主主義はもはや自己回復が困難となり崩壊します。
 このように、一度決めてしまうと取り返しがつかないことは、多数決による国民投票にはなじまないことを知っておくべきでしょう。

@正統性がない国会

 この改憲論議を進めるにあたっては、国政選挙におけるいわゆる「一票の格差」問題は避けられません。今回の選挙区では、福井県を1票とすると、埼玉県、新潟県は0.33票しかありません。有権者のたった4割が選挙区選出議員の過半数を選んだ計算になり、主権者の多数が国会議員の多数を選出していないのです。このような国会にはそもそも民主的な正統性があるとはいえません。最高裁が衆議院、参議院ともに違憲の状態の選挙だと断じた国会で選出された議員を含めて、改憲勢力が3分の2だといってみても、こうした国会議員による発議にはなんの正統性も認められないのです。
 まずは人口比例選挙にして1人1票を実現しない限り、国会は発議すらできないはずです。この状態を放置しながら、憲法改正の議論をするのは本末転倒でしかありません。
 我々は、参院選翌日に全国すべての45選挙区で選挙無効訴訟を提訴しました。こうした違憲訴訟自体を封じ込めるために自民党は「1人1票の人口比例選挙でなくてもよい」とする趣旨の改憲を今回の参院選の公約に掲げていました。しかし、まず現行憲法が要請する人口比例選挙を実現し、その上であらためて参議院の役割をしっかりと国会で議論をするべきです。現実の違憲状態をなくすために憲法を変えてしまえというのは、あまりにも非立憲的な考えです。しかし、このように違憲の規制事実を積み上げて、あとでそれを改憲によって追認するという手法は,安保法制や秘密保護法による情報統制も含めて非立憲的な現在の自民党の体質なのかもしれません。

@今の国民に求められているものとは?

 今の憲法の理念に基づき一人ひとりの個人を尊重する国づくりと、自民党が提唱する強く豊かな国づくりでは、方向が全く異なります。市民の一人ひとりにとって、今回の選挙の結果は、自民党改憲案の目指す方向性が、自分の幸せにつながるのかどうか、我が事として考えるよい機会となるはずです。そこで培った市民の力を次の総選挙で生かし、憲法を意識した投票行動に出るためには大きなチャンスといえます。そういう意味では、この選挙は終わりではなく、始まりだといってよいでしょう。
 日本は1874年の台湾出兵から、1945年まで71年間「戦争をし続けた国」でした。今年は、戦後「戦争をしない国」として71年にあたります。やっとタイまで持ち込めました。「戦争しない国」というこの国のかたちをどこまで続けることができるでしょうか。私たち市民は重要な岐路に立っています。

平成天皇の生前退位について:ル・モンド紙

★ルモンドの記事から(天皇退位について)
***「内田樹の研究室 2016・07・15記事」より転載

天皇は退位の意向を持っていないと7月13日水曜日夕刻に宮内庁は断言した。同日の早い時間に、公共放送NHKと共同通信は数年以内に明仁が退位する可能性があることを報じた。
1989年に即位し、現在82歳になる天皇は、政府筋によると、以前から「この地位にあるものが果すべき責務」を十全に担い得る者に譲位したいという意向を洩らしていた。
「退位はない」と同日夜に宮内庁の山本信一郎次長は述べた。だが、観測筋によると、これほどのニュースが確かな筋からの裏づけなしにNHKや共同通信から報道されることはありえないという。さきに五月に宮内庁は君主の公務の削減を発表していた。
この情報の裏づけが取れれば、これは明仁の直系の祖である光格天皇(1771~1840)が1817年に退位して以来のこととなる。
その場合、皇位は皇太子徳仁(56歳)に継承される。皇太子はオックスフォードで学び、元外交官の雅子妃と結婚している。夫妻には愛子(14歳)という一女がある。
退位については法律に規定がない。この問題はただちにメディアと政界を揺るがすことになる。
「皇室典範の改定が必要になると思う」と与党自民党の佐藤勉国対委員長は述べた。皇室典範には退位の規定がなく、第四条には「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」としか書かれていないからである。
皇室典範の改定には全党派が支持している。ただし、共産党は小池晃書記長が退位の声明はまだ公式なものではないと述べて態度を保留している。
今上天皇は日本の125代天皇で、歴史上はじめて平民(日清製粉という食品業者の社長の娘)を皇后に迎えた。彼は率直で国民に親しい天皇というイメージを作り上げて、日本国民には非常に人気がある。
高齢に伴い、天皇は儀礼的な活動を抑制し、訪日する外国要人との公式会食や地方自治体の首長との会見などを減らして来た。2009年にも天皇皇后は日本各地訪問の際のスピーチを断っている。
明仁は今年の冬に風邪を引いた。2012年には冠状動脈のバイパス手術を受け、その1年前には肺炎に罹患し、2003年には前立腺腫瘍の手術を受けている。
退位についての情報は7月10日の参院選における安倍晋三総理大臣陣営の圧勝の三日後にリークされた。参院選の当日、安倍氏は日本経済の難問への取り組みを後回しにして、1947年制定の平和憲法の改定に言及した。
2012年に起草された自民党の改憲草案によれば、天皇の地位は現行憲法における「国家と国民の統合の象徴」から「国家元首」になる。
天皇には政治的権威はないが、天皇は安倍氏の政策選択に必ずしも同意していない。
第二次世界大戦時の役割についていまだに議論されている裕仁の後継者として、明仁は世界平和と、軍国主義日本の犠牲となった国々とりわけ中国と韓国との和解をつよく求めて来た。
2015年に明仁は終戦70年記念に際してさきの大戦に対する「深い反省」の意を表明した。後継者である徳仁皇太子も憲法に対する愛着と、「平和のはかりしれない価値を心に刻む」との意志を約束している。

改憲勢力3分の2超 ドウスル、、、有権者!

★改憲勢力3分の2超 騙された有権者
***「ニュースハンター 2016年7月11日 09:15配信」記事より転載

 結果として、有権者は改憲勢力への信任をしたことになる。
10日投開票の参議院議員選挙で、自民、公明、おおさか維新などのいわゆる“改憲勢力”が、改選・非改選合わせて3分の2の議席を得る結果となった。憲法改正を争点から外し、アベノミクスの是非一本に絞った自公の選挙戦術が功を奏した形だ。
安倍首相は、「改憲に一定の支持を得た」として憲法改正に向けた動きを強めると見られている。
 日本の有権者は、選択を間違った。

@嘘とごまかしの選挙戦
 
 選挙中、安倍首相が街頭で何度も使ったのが「3年半前のあの頃に戻すか、アベノミクスを進めるか」というフレーズ。3年半前とは民主党が政権を担っていた平成24年頃のことだ。幼稚な政権運営で自滅した民主党への批判を繰り返したことは、安倍政権の3年半で、国民が納得する成果が得られていないことの裏返し。必然的に、首相が訴えた実績には、嘘やごまかしが多い。下は、自民党の公約集の冒頭、自民党総裁である安倍氏の挨拶文だ。

『政権奪還から3年半、経済最優先で取り組んできました。 中小企業の倒産は政権交代前から3割減少し、25年ぶりの少なさ。雇用は110万人増えました。 全国津々浦々、誰にでも一つ以上の仕事がある。史上初めて、有効求人倍率が、47全ての都道府県で1倍を超えました。 今世紀最高水準の賃上げが、一昨年、昨年に続き、今年の春も、3年連続で実現。パートの皆さんの賃金も過去最高です。 まだ道半ばではありますが、アベノミクスは、確実に「結果」を生み出しています。 しかし、今、世界経済がリスクに直面しています。悠久の歴史を紡いできた伊勢志摩の地で、このリスクに共に立ち向かう意志を、G7のリーダー達と共有しました。 日本もあらゆる政策を総動員する。消費税率引上げを2年半延期します。総合的かつ大胆な経済対策を講じ、アベノミクスのエンジンを最大限にふかすことで、デフレからの脱出速度を更に上げていきます。 この道しかありません』 

 安倍政権が最優先でやってきたのは、特定秘密保護法の制定、武器輸出の解禁、集団的自衛権の行使容認、安保法制といった戦争を遂行するための体制作り。アベノミクスが失敗に終わっていることなど、有権者の多くは気付いているはずだ。雇用が110万人増えたというが、その大半は非正規。「今世紀最高水準の賃上げ」を実感しているのは、もともと高い給料をもらっている大企業の社員だけだろう。「パートの皆さんの賃金も過去最高」に至っては、作り話としか思えない。それでも自民党が単独過半数……。この国の有権者は、考えていた以上に我慢強い。「気をつけよう。甘い言葉と民進党」(安倍首相の街頭演説より)。戦前回帰を目指す安倍の方が危ないのは言うまでもないが、有権者は「アベノミクス」の連呼に、まんまと騙された格好だ。

@公約の隅に「改憲を目指します」
 
 自民党の狡猾さは、「憲法は争点にならない」としながら、公約の隅に「改憲」を謳っていることでも分かる。多岐にわたった公約集の最後、おそらく誰も気づかないような形で、こう記されていた。

 『自民党は、「憲法改正には、衆参両院の3分の2以上の賛成及び国民投票による過半数の賛成が必要」だとした上で、「憲法改正を目指します」と宣言しているのである』
参院選の結果は、改憲勢力で3分の2を超えるもの。安倍首相の視野の中に、「憲法」というゴールが見え始めた。

@公明党の実相
 
 改憲の補助勢力となるのが「平和の党」を標榜してきた公明党だ。選挙期間中、公明党の山口那津男代表が街頭演説でこう歌っていた。

 『手をつなげ公明、自民~叩きつぶせ民進、共産~』

 他宗への激しい排斥で知られる創価学会らしく、「叩きつぶせ」の勇ましさ。長く同党が標榜してきた「平和の党」が、真っ赤な嘘であることを示す1コマだった。“はむかう者は叩きつぶせ”――強権的な政権運営を続けてきた安倍晋三首相と公明党・創価学会の考え方は、根底で同じと見るべきだろう。自民党が「9条改正」を言い出せば、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認、安保法でそうだったように、公明党はいろいろと理屈をつけて追従するはずだ。

 EU離脱を決めた英国の国民が、結果が出た後で後悔していることが報じられている。近い将来、同じようなことが私たちの日本でも起こる可能性が高くなった。

・・・・・・・・・・・・・

★迫りくるファシズムに備えて 国民投票で「改憲否決」を
***「田中龍作ジャーナリズム 2016年7月11日 12:10配信」記事より転載

 言いたいことが言え、兵役もない。そんな日本の風景が一変しそうだ。

 改憲4党(自・公・お維・こ)に改憲派の無所属議員を加えれば、全議席の3分の2に届く。憲法改正が発議できるのである。

 「新憲法が悪かったら元に戻せばいいじゃないか」は現実的ではない。野党が衆参で3分の2以上を獲るのは夢物語だからだ。

 何より緊急事態条項が発令されれば、選挙さえ行われなくなる恐れがある。

 あの党がしっかりしていれば、あの議員がもっと上手にアピールしていれば・・・悔やんでも何も始まらない。

 発議されても国民投票で過半数を取らせないようなムーブメントを作り出すことだ。新聞テレビの報道に誘導されないようにすることだ。

 否決すれば、安倍政権にNOの審判が下されることになるのだから。

 大阪都構想をめぐっては住民投票(2015年5月)で否決し、橋下徹・大阪市長を辞任に追い込んだ。

 吉野川ダム建設の是非を問う徳島市の住民投票(2000年)では、建設反対が多数となり、ダム建設計画は立ち消えとなった。

 「運動のための運動」ではアベは止まらない。暴走に歯止めを掛けるには、辛うじて まだ 使える現行の制度を使うことだ。

 迫りくるファシズムを食い止めなければならない。さもなくば一直線に戦前に逆戻りする。

  ~終わり~

英国のEU離脱について

★英国のEU離脱について***「内田樹の研究室 2016/06/29」より転載

 EU構想の起源は16世紀のルネサンス期に誕生した「文芸共和国」に遡る。その当時、ヨーロッパ各国の学者たちは、それぞれの学術研究の成果を、彼らの共通語であるラテン語でしたためて、頻繁な手紙のやりとりを行った。
そうして形成されたクロスボーダーな「人文主義者のネットワーク」はそれから後も形態を変えながらヨーロッパにつねに存在し続けいる。クーデンホーフ=カレルギー伯爵の「汎ヨーロッパ主義」も、オルテガ・イ・ガセットの「ヨーロッパ合衆国」構想も、ピエール・ド・クーベルタン男爵の「近代五輪」構想も、いずれも「文芸共和国」のアイディアに由来している。共通するのは、「そういうこと」を考え出す人たちがみな「貴族」だったということである。
ヨーロッパにおいて、「貴族たち」は国民国家内部的な存在ではない。彼らはたいていの場合、自国の労働者階級よりは、他国の貴族たちに親しみを感じているし、自国語よりむしろ世界共通語(リンガフランカ)で思想や感懐を語ることを好む。クロスボーダーな連帯を育むことができるのはこれらの「貴族たち」である。「一般市民」は自国の国境内に釘付けにされ、自国語だけを語り、自国の生活文化に胸まで浸かっている。
この二極構造は、「文芸共和国」からEUまで本質的には変わることなくヨーロッパの政治と文化に伏流している。
17世紀ウェストファリア条約を契機に国民国家システムが始まってからは、それぞれの国民国家は「自国益を最優先する立場と(本音)」と「ヨーロッパ全体の生き残りを優先する立場(建て前)」を二極として、その間のどこかに「おとしどころ」を求めるという仕方で国家運営をしてきた。

英国のEUをめぐる国民投票では、富裕層・高学歴層が「残留」を求め、労働者階級や低学歴層が「離脱」を求めたという統計が公開されている。ヨーロッパ共同体に軸足を置く志向と、国民国家の威信や主権を優先する志向はもともと食い合わせが悪いのだ。その調整がヨーロッパ列国における統治者の力量と見識の見せどころなのだが、英国のキャメロン首相はそれに失敗した。ヨーロッパ諸国の共生という「理想主義」と「自分さえよければそれでいい」という「現実主義」を対比させての国民投票なら、あるいは結果は違ったかも知れない。だが、残留派はEUに残ることのもたらす経済的「実利」を表に出して、EUに制約されない主権国家でありたいという政治的「幻想」に屈服した。これは国民投票を仕掛けたキャメロンの失着だったと思う。
転換期において統治者に求められるのは、見晴らしのよいヴィジョンであって、目先の銭金の話ではない。そのことを日本人も「他山の石」として学ぶべきだろう。
ただ、「ヨーロッパ共同体」と「国民国家」の葛藤は今に始まった話ではない。だから、これで終わるわけでもない。
ジャン・ルノワールの『大いなる幻影』は第一次世界大戦中の、ドイツ人貴族とその捕虜となったフランス人貴族間に芽生えた国境を越えた友愛が戦闘的なナショナリズムによって打ち砕かれるという物語だった。
カズオ・イシグロの『日の名残り』は第一次大戦後、敗戦国ドイツに救いの手を差し伸べようとする英国人貴族の「スポーツマン精神」が武力と金しか信じない新興国アメリカの政治家によって打ち砕かれる物語だった。
物語の中では、つねに理想は現実に打ち砕かれる。けれども、そのつど理想は甦ってきた。だからこそEUも今存在しているのだ。
「文芸共和国」の構想は国民国家の発生より古い。この二つの原理の葛藤はまだ長くかたちを変えて続くはずである。
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