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17.草千里

 七月の終わり、阿蘇の草千里へ出かけてみた。博多から熊本まで、列車の車内に置いてある旅の小冊子をめくりながら、ときおり車窓の風景を眺める。JR九州が毎月発行しているこの冊子は、文筆家(現在は伊集院静さん執筆)の随筆や観光地情報、筒井ガンコ堂さんの「食」のエッセイなど、季節にふさわしい題材で小文や情報が紹介されていて、車中、退屈せずにほどよく愉しめる。熊本で豊肥線を走る九州横断特急に乗り換える。車内の内装がとても落ち着いた色調とデザインで感心した。列車はひたすら東へ。大津の杉並木を過ぎると、白川に沿った線路はしだいに勾配がきつくなりだす。スイッチバックで知られる立野駅に近づくと、南側の俵山の中腹に風力発電の巨大な風車がまわっていた。立野から阿蘇の内輪を北上し、かつて坊中と呼ばれた阿蘇駅で下車。この間の車窓の風景が素晴らしい。大きな夏空の下、大観望、阿蘇五岳、田園の緑に包まれている開放感がたまらない。阿蘇駅の隣にある物産販売施設で、昔なつかしい色かたちをしたトマトを見つけ、購入(たいへん、美味であった)。バスで阿蘇山西へ向かうと、二年前の夏と同じように、ハナウドやしぼみかけたユウスゲが群生していた。ものの本によると、阿蘇の草原には六百種の植物が生育しているという。ついでだが、阿蘇地方では「盆花採り」といって、盂蘭盆に祖先の墓前に野の花を手向ける風習がある。盆の初日前の朝、草原に野の花(カワラナデシコ、オミナエシ、コオニユリ、アサノコギリソウ、ヒゴタイ、タムラソウ…)を摘みにいく。しかしながら近年はその風習も薄れつつある。バスの同乗者には、韓国、中国人観光客が多く、ユースホステルから乗り込んだヨーロッパからの旅行者もいた。運転手のはからいで眺望のよいポイントでバスを降りると、思っていた以上に涼しい。平地よりも恐らく6℃以上は低いようで、風が吹いているので、体感的にはさらに涼しく感じる。草千里のバス停で下車すると、やはり、韓国、中国からの団体客が多い。土産物店の外で休んでいると、珍しい蝶、アサギマダラを見つけた。アサギマダラは本来、台湾や沖縄などに分布するものだが、近年は福岡市内でも見ることがある。それにしても阿蘇の高原にまで生息域を広げるとは。この日は自転車レースのイベントがあっているようで、前の道路を、力のある者たちが風を切って次々と走り抜ける。観光用の乗馬コースを横切って、草千里を一望できる丘へ上がる。人だかりから離れると、さらに涼しさが増す。浅い池のふちにたたずむ黒い牛たち、草原をゆっくりとあゆむ雲の影、こころくつろぐ風景の中で、しばし時を過ごす。あたりの山かげに、蜩の涼しい声がこだましている。あまり、期待はしていなかったが、ここへ来てよかったとおおいに満足したのだった。市ノ川駅の前にある郷土料理の店「あそ路」で、たかなめし、モツ煮込み、ご汁などを食べる。ご汁は特に味わいがある。福岡以上に暑い熊本市内に寄ると、美術館でシャガール展が開催されていた。二十歳ぐらいの時に描いた絵に、すでに心理的遠近法と呼ばれる表現がみられ、キュービズムなどの勉強をしていたことがわかる作品もあって、なかなか興味深かった。



























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