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終戦直後のような預金封鎖は本当に起きるのか?

★終戦直後のような預金封鎖は本当に起きるのか? 国民に浸透した「超財政悪化不安」
*****「 ダイヤモンドオンライン 『今週のキーワード』 *真壁昭夫氏 2014-7/1」より転載

@終戦直後の新円切替は再来するか?過去を知る講演参加者の強い懸念

「先生、これから戦後の新円切替のようなことが起こりますか?」

 先日、四国で行った経済講演のとき、同じテーブルにいた年の頃は80歳を超えていると思しき参加者の1人が、きれいに保存された古い紙幣を見せてくれた。そして、囁くように話しかけてきたのがこの質問だった。

 彼は、戦後の新円切替のことを昨日のことのように、鮮明に記憶していた。そして、その記憶をしみじみ話してくれた。

「私の父は商売をしていて、それなりに裕福だった。ところが、戦後の激しいインフレの中で政府が実施した新円切替に伴う預金封鎖などで財産の大半を失い、その後厳しい環境の中で生活せざるを得なかった」

 実際の切り替えのとき、彼の父は蔵の中にあった旧紙幣や国債などを燃やせと指示したという。彼は事態を正確に把握することができず、「何故、大切なものを燃やしてしまうのか」がよくわからなかったそうだ。

 そして長いときを経た今、彼は、わが国の財政状況の悪化によって、そのときの悪夢が再現されることを心の底から心配している様子だった。彼の話がとてもリアルで、しかも話しぶりが真剣だったこともあり、筆者は質問に対する答えに窮するほどだった。

 そのとき、「一般庶民の中にも、これほど財政状況について心配している人がいるのだ」ということを痛感した。足もとの状況を冷静に考えると、すぐに戦後のような新円切替などが起きるとは考えにくいものの、長い目で見れば、そうした事態の可能性を完全に払拭することは難しいだろう。

 今後、政府はそうした事態の発生を避けるために、様々な手立てを打つことだろう。そのときに重要な点は、国民にわかりやすく財政状況を説明することだろう。そうでないと、彼のような庶民の心配を消し去ることはできない。

@実質的には国民の資産と国債残高を相殺 デフォルトを回避した施策のからくり

 第二次世界大戦当時のわが国は、戦費調達などで財政状況が悪化し、1944年度末において国の債務残高が国内所得の260%を超える水準に達していた。それに加えて、戦時の補償債務や賠償問題によって国の債務がさらに拡大する一方、戦後の物資不足などの影響もあり激しく物価が上昇した。

 そうした事態を収拾するために、1946年3月、当時の政府は人々の現金保有を制限すべく預金封鎖を発令した。また旧紙幣の流通を差し止めて強制的に銀行に預金させ、それを新円とを交換する措置を取った。

 それと同時に、一世帯当たりの月の預金引き出し額を制限した。そうした措置によって、政府は家計が持っていた現金をすべて吐き出させ、インフレを鎮静化することを目指したのである。

 その次に実施したのが、財産税の導入だ。国民が保有している不動産や動産、現預金などに対して25%から最高で90%までの高い税率を課し、徴税した税金を使って国債を償還する手法が取られた。つまり、実質的には国民の資産と国債残高を相殺する格好にした。

 それによって、形式的には国債はデフォルト(債務不履行)に陥らなかった。国が国民の資産を奪ったのではなく、理屈の上では徴税権を行使したことになる。また、その後の民間金融機関の再建などのために、預金封鎖による原資が使われることになった。

 こうした一連の措置を見ると、当時は国の債務を帳消しにするために、国民の資産、特に預金が充当されたことがよくわかる。それを考えると、冒頭の男性が抱く不安があながち荒唐無稽なものでないことが納得できるだろう。

 ただし、現在のわが国の財政状況を分析すると、戦後の混乱期とは明らかに異なっている。財政状況は主要先進国の中で最も悪化しているとはいうものの、まだ財務当局のコントロールは効いている。すぐに預金封鎖などの事態に追い込まれることは考え難い。

 わが国の10年物国債の流通利回りは0.60%程度で、先進国の中で最も低い水準にある。その理由は2つの要因を考えるとわかり易い。1つは、日銀が大量の国債を購入していることだ。

@当時と今とではどこが違うのか?  日銀が支える日本の財政と国債市場

 もともと日銀は定例的に国債を購入していたが、昨年4月の異次元の金融緩和策の実施によって購入額は一挙に拡大し、毎月7兆円程度の紙幣を印刷して多額の国債を購入している。日銀が国債を大量購入していることもあり、足もとのわが国の国債市場は一定の平穏を保っているのだ。

 もう1つの要因は、国内の個人金融資産だ。わが国の個人金融資産は1600兆円にも上る。その個人金融資産が、今まで国債消化の原資となってきた。個人が給与振り込みで銀行に100円でも預金を持った場合、一般的に銀行はその資金を貸し出しに回すものだが、景気の低迷が続いたこともあり、企業の資金需要が伸びずに資金が余ることが多かった。

 銀行は余った資金で国債を購入するケースが多く、結果として各個人が意識することなく、銀行への預金の一部が国債購入資金になっていたのである。そのため、国の借金の増加にもかかわらず、国債の市場が安定していたと言える。

 しかし、そうした状況を長期間続けることには無理がある。日銀の国債大量購入によって国債の売買高が減少し、市場の機能そのものが失われることが懸念される。その場合には、一般の投資家が国債市場から退出せざるを得ない。

 また、国債の大量購入によって日銀のバランスシートが拡大し、日銀の信用力が低下することも考えられる。日銀の信用力が低下すると、日銀が発行する紙幣の信用力が落ちてインフレが高進することも想定される。
一方、国債消化原資となっている個人金融資産にも、限界がある。わが国の経常収支は何とか黒字を維持しているものの、黒字幅は急速に縮小している。経常収支の黒字幅が縮小することは、国内の資産蓄積のペースが鈍るということだ。

 足もとの経常収支のペースを考えると、今後金融資産の大幅な積み上げは期待できないだろう。そうなると、これから国債消化の原資にも限界が見えてくる。ある試算によると、あと10年以内に国債消化のための個人金融資産の原資が枯渇する可能性があるという。それが現実のものになると、国債市場が不安定化することになるだろう。

 その意味では、財政再建はわが国にとって避けて通れない重要問題なのである。具体的に財政再建を実行するためには、税収を増やして歳入の増加を図るか、社会保障費などを見直して歳出を減らすか、あるいはその両方を実行することが必要になる。

@個人金融資産の限界とあるべき対応 フィスカルドラッグの中での危機回避策

 いずれの施策を選択したとしても、景気にはマイナスの効果を与えることになる。それは、一般的にフィスカルドラッグ(財政の景気抑制効果)と呼ばれる。今回の消費税率引き上げに関しては、わが国経済は何とかクリアできそうだが、それだけで打ち止めというわけではない。これからも消費税率引き上げに加えて、外形標準課税など税収基盤の拡充を図ることが必要になるはずだ。

 また、社会保障制度の見直しも避けられない。もともと政府は社会保障と税の一体改革を謳ってきた。これから歳出削減のため、国民に痛みが及ぶ社会保障制度の改革はどうしても必要だろう

 そしてもう1つは、わが国企業の競争力強化を図ることだ。最近、わが国産業の競争力は低下傾向が顕著になっていると言われている。それは貿易収支が大幅な赤字に陥っていることからも明らかだ。企業が海外のライバルと競争するためには、企業自身が積極的に新技術や新製品の開発に取り組むことが必須だ。

 それがないと、わが国の経済の実力を高めることはできない。経済の実力が高まらないと、フィスカルドラッグの中でしっかりと財政再建を進めることは一段と困難になる。

*真壁昭夫氏[信州大学教授]:1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員などを経て現職に。著書は「下流にならない生き方」「行動ファイナンスの実践」「はじめての金融工学」など多数。
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