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流氷に閉ざされた『酷愛』:映画「私の男」

★流氷に閉ざされた『酷愛』:日本映画「私の男」

北海道出身の熊切和嘉監督は「海炭市叙景」で函館の寂れた風景を鮮やかに切り取ったが、今回は雪に閉ざされた港町紋別を舞台に、タブーである2人の男女の関係に踏み込んでいく。その愛の深さと熱さを『酷愛』と呼んでみる。『酷愛』を描いて僕の情動を揺さぶった作品群には、「仁義の墓場」「実録・阿部定」「愛のコリーダ」「赤い髪の女」「赤い教室」から始まって、近作には「悪人」「軽蔑」「そこのみにて光輝く」と秀作が並ぶ。

奥尻島の大地震による津波で孤児となった花(山田望叶)を、遠い親戚を名乗る腐野淳悟(浅野忠信)が引き取るまでのエピソードは、記憶の残像のような粒子の荒い16ミリで撮られている。「犯す!」(長谷部安春監督作品)のような、ざらついた画面は心の懊悩を表現して秀逸だ。花と淳悟の孤独な魂が合い寄るような、悲痛な冬の紋別の風景を、名手・近藤龍人のカメラはフレームに落とし込む。山田望叶はNHK「アンと花子」でも達者な演技を魅せているが、この作品では、ノンシャランな天使の顔と、死んだ母親の亡骸の枕元で「オイッ、起きろよ!」とばかりに激しく地を蹴るフリークの顔との、二つの顔の演技は子役のそれを超えている。

高校生になった花(二階堂ふみ)は、無垢と底知れぬ淫蕩さが奇妙に同居する、妖しい少女へと変貌をとげていく。その落差を撫でるように不協和音を内奥に響かせるのは、アヴァンギャルドジャズ・ノイズミュージックなどを手がけるジム・オルークの楽曲である。(若松孝司と「あさま山荘への道」で協働したことがある。)熊切和嘉監督は、花と淳悟の情交を見た大塩(藤竜也)を、寒風吹きすさぶ中、花が暴力的にオホーツクの流氷の方へ流すシーンに、16ミリから35ミリへフィルムを変えて、異様なまでのリアリティを追求する。この場面の藤竜也と二階堂ふみは文字通り『体当たり演技』で、ほんとうにスタッフ・キャストともどもたいへんだったと思う。

花と淳悟は大塩の一件で東京に逃避行するのだが、ドラマが一挙に散漫になってくる。原作はどうだか知らないが、浅野忠信がモロ師岡を刺し殺すシーンで終わった方が、映画的な深みがでてよかったのではないだろうか。養父である淳悟と花のインモラルな結びつきには、冬ざれた港町紋別という風土性がいかに不可欠であるかを物語っている。抜きさしならぬ悲劇の連鎖である本作において、熊切監督は、あたう限り2人の主人公の内面に深く分け入り、血の渇きにも似たグロテスクで官能的な世界を現出させた。その意味では、花が社会人になってから以降の話は、まさに『蛇足』と言ってよい。

モスクワ国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀男優賞を獲得したと言う。熊切監督作品としては「海炭市叙景」の方が上出来だと僕は思うが、浅野忠信の演技に対しての賞には「否や」はない。「愛のコリーダ」の藤竜也を髣髴させる、全身全霊を込めた演技だった。特記して賞賛したい。

なお、この「私の男」は初めての大野城イオンシネマで観た。リベルテ(日田)・シエマ(佐賀)・KBCシネマ(福岡)のような名画座ではなく、一般的なシネコンで興行されたことがトテモ嬉しい。
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