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32.風景と建築

 私の仕事場の作業机は東向きの出窓に接した位置にあって、机の面より少し高い出窓の棚に、ときおり読みたくなる本を並べている。その中に、中村好文さんの「意中の建築(上・下)」がある。氏が取材した世界、日本の建築や土木構造物などが周囲の風景などと共に、紹介、解説されている。ランドスケープデザインを考える上でのヒントとしたり、また肩の凝らない読み物として、よく手にする本である。学生のころから、建築単体よりも建築の配置されるロケーションや建築を含めた風景を考えることに興味があった私は、まもなく、アスプルンドの設計した「森の火葬場」を知ることになった。その「森の火葬場」が「意中の建築(下)」に取り上げられている。建築やデザインに関わっていない人たちにもぜひ、一読をお奨めしたい。「森の火葬場」はスウェーデン、ストックホルム郊外にある市営の墓地で、75ヘクタールの敷地に、火葬施設、礼拝堂、墓域が、周囲の自然に溶け込むように配されている。設計者は、エリック・グンナール・アスプルンド(1885~1940)。設計から25年後に完成、アスプルンドの墓もここにある。1994年、世界遺産に登録。氏も語っているように、葬礼施設というより「葬儀の場所、あるいは風景」としての印象を強く与えるように配置計画がなされ、個々がデザインされている。入口から林を抜けると、木立と低い塀に沿った長い長い石畳の坂道がまっすぐに伸びる。前方から右手に広がる草原と空、礼拝堂の手前にある石の十字架。これらの風景を一つのシーンに収めた写真は、実際たずねたことはないが、昔から私の脳裏に長く焼き付いている。昨日テレビを見ていると、デザイン墓石の話が流れていた。二、三十代の若い人たちにオリジナルデザインによる墓石への関心が高まっているらしい。個人レベルで思いつきそうな話で、わからなくも無いが、アスプルンドの「森の火葬場」を利用できるストックホルムの人たちが羨ましくなる。設計事務所に勤めていたころ、唐津墓地公園の設計にたずさわったことがある。眺望の効く郊外の丘陵の尾根に、墓域や、広場、管理事務所、駐車場、園地、樹林などを配置したのだが、ここで考えたのは、眺望の効く場所で、墓石が緑に隠れて見えないようにすることだった。墓石を低く、形状を小さく規格化し、墓域を低い生垣で区切って、水場などにまとまった木立を設けた。六、七年ほど前の春、唐津に出かけた折りに寄ってみると、墓域へ向かう入口の広場に、たくさんのコブシが清楚な白い花を咲かせ、墓域はきちんと手入れされていて、茶畑のように見えた。設計をしたころ、頭の片隅にアスプルンドの「森の火葬場」がチラチラしていたことを思い出す。


















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