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日本のリベラリズムの危機②:歴史修正主義はアジアの分裂をもたらす 

★「日本のリベラリズムの危機」を考える②:歴史修正主義はアジアの分裂をもたらす
  BY ジェフリー・キングストン :テンプル大学(日本校)教授

@「吉田証言問題」は政治的な問題

慰安婦に関する20年以上前のわずかなレポートが、吉田清治による信頼性に欠ける証言に基づくものであったことを朝日新聞が認めたという事実は、この慰安婦システムの性質と程度に対して疑いを投げかけ、それによって最小化と否認の歴史観を推進するための口実に用いられている。

当然ながら、安倍陣営は朝日新聞の問題を政治的なアドバンテージとして利用している。結局のところ、この問題はジャーナリズムというよりもむしろ政治的な問題であり、保守主義者が日本のアイデンティティを自らの観点で再定義するために行った文化的闘争の一部なのだといえる。かねてから右翼主義者は、この文化的闘争において朝日新聞を主な敵対対象メディア、攻撃の標的としている。

朝日新聞の元記者とその勤務先の大学関係者に嫌がらせを行い、これらの元記者との契約を解除しなければ、釘を入れた爆弾を爆発させて学生に危害を加えるなどと脅迫したネット右翼の事例もある。在特会によるヘイトスピーチ運動においても、日本の在日コミュニティに対する嫌がらせと、殺害予告が行われている。安倍首相は、こうした狭量な行為を黙認し、反朝日運動の応援部長のように振る舞っている。

このような日本の現状は、多くの日本人にとって気分のいいものではなく、また、日本人の国家に対するアイデンティティにそぐわない。 そして、この文脈で考える場合、天皇の言葉は批難や警告として解釈することができる。

2015年は節目の年だ。安倍首相の修正主義的な歴史観により、彼が日本の戦争責任に関して夏に発表する予定の声明についてさまざまな憶測が飛び交っている。安倍首相は、アジア全体に大日本帝国がもたらした悲劇を過小評価し、また、それを正当化するような言動をとることによって、アジア地域の分裂を引き起こしかねない。

過去には、1995年に終戦50年決議が可決された際、安倍首相は国会を欠席しており、同年8月に発表された当時の首相による村山談話について安倍首相は不快感を示している。村山談話は、日本の戦争責任を認め、侵略による甚大な影響を広く謝罪した点で国会の終戦50年決議よりもはるかに明確な声明だった。

安倍首相は日本の植民地時代および戦時期の歴史に関する論争に与しており、2007年3月1日の国会では、日本帝国陸軍の性奴隷として若い女性や児童を動員した際の強制のレベルについて、こじつけとも言える議論を展開して韓国人の反感を買った。3月1日は、1919年の韓国で日本の植民地支配に対する独立運動が起こった日だったため、安倍首相は極めて不適切な時機にこのようなコメントを発したと言える。

2010年、韓国における日本の植民地支配開始から100年目を迎えるに際し、菅直人首相は、日本が韓国の人々の尊厳を傷つけたことを認め、反省の意を表する痛切な声明を発表したが、この際に安倍氏は、菅首相のこのコメントに憤りを露わにして不見識だと一蹴した。

@安倍首相が進める「歴史への干渉」

安倍首相は2006~07年の首相就任中に、愛国心教育を推進する法律「改正教育基本法」を制定した。この法律は、他のアジア諸国と日本が共有してきた過去の歴史観に変化をもたらし、日本の若者に国家に対する誇りを育もうというものだった。また、安倍政権時の文部科学省は、1945年の沖縄戦に関する記述について、日本兵が集団自決を扇動したとする表現を削除して修正するよう教科書出版社に圧力をかけた。これに対して、沖縄の人々からは怒りに満ちた反発が起こった。沖縄での集団自決は、目撃証言に基づく事実であり、沖縄の人々のアイデンティティにかかわる歴史観の重要な要素だからだ。

安倍首相の歴史への干渉はこれにとどまらない。2014年の初めには、文部科学省が教科書出版社に対し、議論の分かれる歴史問題については政府の見解または最高裁判所の判例に倣うよう促すガイドラインを発表した。また、同年末には在ニューヨーク日本領事館を通じて、日本政府が不正確だと考える慰安婦に関する教科書の記述を修正するようマグロウヒル(McGraw Hill )に要求した。マグロウヒルはこの要求を拒絶し、根拠を提示して、同社の記述には、それを裏付ける学術的なコンセンサスが得られており、日本政府が教科書の内容について要求すべきではないと主張した。

慰安婦問題や米慰安婦像の設置に関して安倍首相が抱える問題は、不誠実にも事実を無視したことによる自業自得の損害だ。1993年の河野談話は、慰安婦のシステムに対する国家責任についての日本の集団的記憶喪失とも言える時代の終了を象徴するものであり、これによって日本の評価は大いに改善された。それにもかかわらず、安倍首相は繰り返し河野談話に対する工作活動を行って日本の国際的な地位を著しく損ない、自らの思慮分別に対する疑問の声を招いているのだ。

2007年の米国下院決議(H. Res. 121)は、慰安婦に関する安倍首相の所見を批難する決議だったが、この決議は吉田証言に基づくものでも、朝日新聞の報告に基づくものでもなかった。H. Res. 121は、長年にわたって蓄積された、慰安婦システムへの日本軍と日本政府の関与を示唆する膨大な証拠資料に基づいていたのだ。

皮肉にも、米国の4つの街に慰安婦像を設置するきっかけをつくったのは、朝日新聞ではなく、安倍首相にほかならない。これらの慰安婦像の建設を呼びかけた朝鮮系アメリカ人は、慰安婦の動員に関して物議を醸した安倍首相の2007年の声明に反応したのだ。慰安婦像の設置を推進していた主要団体には、安倍首相の二枚舌とも言えるコメントを激しく非難した下院議決になぞらえて、「121」と自称する団体がある。

最近の安倍首相のスタンドプレーを見る限り、日本は慰安婦に対して与えた恐怖についての責任から逃れようとして、かえって国家の威厳を損なっているように思える。21世紀において、戦争中の女性への暴力は重大な国際的懸念だ。そしてその懸念は日本の市民社会団体が共有する懸念でもある。女性をだまし、性奴隷となることを強制することは、世界全体が抱える問題なのだ。日本はその責任をはっきりと認め、慰安婦女性たちの人生を破滅させたことに対して謝罪と法的な補償を公式に行い、いまなお続くこの問題に対処する国際的な取り組みをリードすることによって、地位を高めることができるかもしれない。

しかし、安倍首相はむしろこの問題に関して日本を国際社会から孤立させる言動をとっており、彼のあいまいなごまかしに関わりたくないと考える親交国もこの問題を扱いづらいと感じている。

@村山談話からの逸脱

天皇は道徳的な権威としての考えを述べている。1月5日に伊勢神宮で開かれた2015年第1回目の安倍首相の記者会見ではこのことがはっきりと示された。この会見で安倍首相は、天皇の所感に対する応答とも思える言葉を述べた。安倍首相は、戦後70年を迎え、反省の意を表す声明を発表し、日本が戦後の平和主義国家として果たしてきたアジア太平洋地域の平和と繁栄への貢献を強調する意向を示した。また、村山談話を踏襲するという従来からの約束を繰り返し述べた。

1995年の談話において、村山首相は、日本が植民地支配と侵略によってアジアおよび諸外国の人々に「多大な損害と苦痛」を与えたことを認め、「痛切な反省の意」と「心からのお詫びの気持ち」を示した。この談話は第二次大戦に関する政府の公式見解となっており、1995年以来ことあるごとに呪文のごとく唱えられている。安倍首相は、世界平和への貢献に率先して取り組むという日本の意向にも言及する可能性があることも示唆した。だが、安倍首相の言う積極的な平和主義は、国家の軍事組織に関する憲法の制限を無視し、米国との安全保障協力を強化するための口実だと多くの日本人は考えている。

70回目となる終戦記念日の談話に関する懸念には、2013年8月15日の安倍首相の談話が関係している。この年の談話で安倍首相は、アジアにおける日本の侵略について反省の意は表明せず、戦争の放棄についても誓約しなかったのだ。

これら2点に言及しなかったことは、村山談話の方針から大きく逸脱するものであり、これによって安倍首相の意図に対する追求の目はさらに厳しくなった。たとえば、米国の議会調査局は、予想外の安倍首相の談話に関する報告書を発表し、安倍首相が村山談話から大きく逸脱するならば、未解決の歴史問題をめぐってアジア地域に敵意を呼び起こす恐れがあることを強調した。

村山談話からの逸脱は、韓国を交えた3カ国での安全保障体制を強化しようという米国の取り組みを妨げ、中国を不必要に刺激する恐れがあるのだ。

米国議会調査局は、慰安婦に関する1993年の河野談話がどのように編集されたかを調査するよう政府の諮問機関に委任した際の安倍首相の責任に言及した。この委任が河野談話を否定するための取り組みであるのは明らかだ。さらに議会調査局は、安倍首相が2013年の国会で「侵略」という言葉には再解釈の余地があることを示唆した発言を引用した。

2013年4月の国会で、安倍首相は「侵略」という言葉についてあいまいな答弁を行い、村山談話を全面的には支持しないと述べた。この詭弁にはアジア諸国から批判が集まった。日本軍が戦時中に行った行為をはぐらかすことによって安倍首相が戦争責任を回避しようとしているように映ったためだ。

したがって、伊勢神宮での発言において安倍首相は天皇の言葉の重要性を理解していることをある程度表明したものの、菅義偉官房長官は、安倍内閣が“基本的”には過去の内閣の歴史問題に対する立場を継承すると説明しながら、修正の可能性を否定せず含みを持たせたのだ。

(構成:ピーター・エニス記者)

***「東洋経済オンライン 『アメリカから見た世界 2015-1/24』」より転載
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