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イーストウッドが描く「戦争中毒の世界」:『アメリカン・スナイパー』

★イーストウッドが描く「戦争中毒の世界」:イラク、アフガン、朝鮮半島、ドミニカ、グレナダ・・・

クリント・イーストウッド監督の最新作『アメリカン・スナイパー』(2014)が劇場公開されている。

@イラク戦争で160人を射殺したスナイパー

 日本で米国を超える評価を受け、キネマ旬報ベスト・テン第1位ともなった音楽映画『ジャージー・ボーイズ』(2014)に続きイーストウッドが描くのは、海軍特殊部隊ネイビー・シールズの「伝説的」スナイパー(狙撃手)クリス・カイルの半生。

 父からライフルを教えられ、ロデオに長けていたテキサスの青年が、テロ報道に接し入隊を決意、シールズの厳しい訓練場面へと映画は進む。

 米軍で最も過酷とされ、脱落者も多いという訓練ぶりは、1年前公開された『ローン・サバイバー』(2013)冒頭でも見られたものだ。

 そこでは、2005年、アフガニスタンでのタリバン幹部殺害計画「レッド・ウィング作戦」が失敗に終わり、ただ1人生還というシールズ創設以来最悪と言われる惨事が描かれているが、今回は、イラク戦争で160人射殺したというスナイパーの物語である。

 そんなイーストウッド映画の汚い言葉連発の訓練風景を見て思い出すのが『ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場』(1986)。悪ガキ揃いの海兵隊員を鍛える定年間近の軍曹をイーストウッド自身が演じ監督した作品である。

 映画の題名が意味するのは、主人公がかつて戦った朝鮮戦争の激戦「Battle of Heartbreak Ridge」。

経験豊富な主人公は、さらに、ベトナム戦争やドミニカ侵攻にも参加したことになっている。どれも冷戦下の「共産主義との戦い」だが、朝鮮、ベトナムばかりか、「米国の裏庭」カリブ海地域でも戦いがあったのである。

@Go ahead, Make my day.

 とは言え、キューバ以外、あまり馴染みがないかもしれない。

 反共姿勢から米国の支持を得ていた長期独裁のラファエル・トルヒーヨ大統領が1961年暗殺され、新憲法を擁し新政権が成立したドミニカ共和国が、クーデターなどで内戦状態となっていた65年4月。

 リンドン・ジョンソン政権は、「もうひとつのキューバ」誕生を恐れ、「トルヒーヨ市」からもとの「サントドミンゴ」へと名前が戻った首都へと海兵隊を投入、「ドミニカ侵攻」は始まったのである。

 そして、1983年が舞台のこの映画の終盤も、政変に巻き込まれた米国市民救出を理由として、映画では声高に叫ばれることもない、共産主義の蔓延を防ぐという一番の目的のもと、軍曹は成長した海兵隊員とともにカリブの小国グレナダへと向かう。

 このグレナダ侵攻の際、ロナルド・レーガン大統領が行った演説の中で、公開中の『ダーティハリー4』(1983)でイーストウッド演じるハリー・キャラハン刑事が悪人に浴びせる「Go ahead, Make my day(やるならやってみな、そしたら十分楽しませてもらうぜ)」という言葉が引用されたことも話題となった。

 この頃の米国は、アフガニスタン紛争への関与など、中東での戦いにも無縁ではなかった。

1975年から始まった第5次中東戦争とも呼ばれるレバノン内戦、多文化社会の歪みと宗派間の根深い対立、多くの民兵組織やPLO、シリア、イスラエルまでもが入りこむ複雑な戦いは、1982年、パレスチナ難民キャンプでの大量虐殺「サブラー・シャティーラ事件」を引き起こした。

@中東のパリを瓦礫の山に変えた戦闘

 しかし、難民保護のため派遣された多国籍軍も、グレナダ侵攻直前の頃、海兵隊基地への自爆テロが発生、241人もの犠牲者を出し、撤退を余儀なくされたのだった。

 15年にもわたり続いた戦いは、かつての「中東のパリ」ベイルートを瓦礫の山へと変えた。

 『ネイビー・シールズ』(1990)は、実際に内戦にも投入されたというシールズ隊員のレバノンを舞台とした物語。

 もっとも、映画自体は自らのミスで奪われた防空ミサイルをテロリストから奪い返すというチャーリー・シーン主演の純然たる娯楽映画。

 一方、同様にミスで爆弾を紛失したかつてのベイルート担当CIA工作員をジョージ・クルーニーが演じる『シリアナ』(2005)は、ドバイやモロッコで撮影された、9・11同時多発テロ後の中東が概観できる地政学映画とでも言えるもの。

 実際CIA工作員だった人物の暴露本をベースに、CIA職員、エネルギーアナリスト、アラブの王子、国際石油資本経営者、企業弁護士、出稼ぎ労働者など多くの人物の物語が並行して進んでいく。

 イランの宗教色を排除し石油利権を奪おうとする米国、既存の欧米資本に割り込む中国、そこにからむ架空の中東の小国「シリアナ」の王位継承権争い、枯渇していく化石燃料、さらには、宗教原理主義といった要素まで交え、陰謀まみれの世界の現実が芸達者な俳優たちによって描き出される。

そして、自爆テロと、室内モニターを通し操作されたドローンによる爆撃が悲劇の結末を作り上げ、登場する人物のほとんどが、世界の「ゲームの捨て駒」に過ぎないことを見せつけるのである。

@カーメル市長の経験がイーストウッドを変えた?

 『アメリカン・スナイパー』は、1月、米国公開となり大ヒット、イラク戦争や狙撃といったことに対する描写スタンスをめぐり論争ともなった。

 「ダーティハリー」のイメージから、強硬派と思われがちなイーストウッドだが、1986年から2年間、カリフォルニア州カーメル市長を歴任してからは、経験のためか、年齢のためか、内省的作品が多くなった。

 そんな一作、西部劇『許されざる者』(1992)でイーストウッドが演じ描いたのが、今は子供と静かに暮らすかつての冷酷な殺し屋。経済的理由から再び殺しに手を染めていく中での心の葛藤である。

 『アメリカン・スナイパー』でも、狙撃シーンが映し出される一方で、家族関係もギクシャク、戦乱のイラクと平和な米国とのギャップに苦しみ、心の傷を抱えているように見える。

 時間は短いが、敵のスナイパーの家族も映し出され、ただの標的ではない生身の人間であることが示される。

 ネット動画で兵士が募集され、3Dプリンターで銃を作ろうとする者がいる今。兵器はより高性能になり、より簡単に手に入り、安全なはずの先進国大都市中心部で生命を脅かすテロが起こる時代でもある。

個人の自由、権利が叫ばれ、訴訟が日常茶飯事となる一方で、簡単に命が奪われている現実もある。相手が武器を使えば、非武装の者はそれで終わり。その場に居合わせてしまったら、あきらめるしかない。

@クリント・イーストウッドの当たり役ダーティハリー

 ましてや、どんなに道義的理由が存在していたとしても、国家が戦争に向かえば、「捨て駒」にされることを避けることは困難を極める。

 世が暗い方向へシフトする一方に思える今、理想を語るばかり、自らの主張を繰り返すばかりでは、何も生まれない。まずは、現実を現実として見ること。

 しかし、「日常生活とはかけ離れた世界」の惨状を伝える報道は、現実感がなく、すぐ頭の中を通り過ぎてしまう。そんなとき、感情移入できる出来の良い映画や小説は有用かもしれない。

 実社会で84年を生き、虚構世界で多くの戦争や犯罪のシチュエーションを演じ演じさせ、多彩な人生経験を積み上げてきた「リバタリアン」イーストウッドは、そんな世界を生き抜くために、「これを見てよく考えろ」と言っているように思えてならない・・・。

***「JBpress 『映画の中の世界』 2015.-3./2 BY 竹野 敏貴」より転載
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