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原発大量再稼働を前提:「温暖化ガス削減目標」

★原発大量稼働を前提とした「温暖化ガス削減目標」。国民は納得できるか
***「現代ビジネス:町田徹『ニュースの深層』2015-6/9」より転載

安倍晋三首相は、ドイツで6月7、8の両日に開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、温暖化ガスの排出を2030年度までに2013年度比で26%削減するという目標をお披露目したはずだ。

この新しい目標は、いきなり外交交渉で決まった過去の目標とは異なり、国内でそれなりの議論を経て策定された経緯がある。それだけに、首相はサミット前に、「無責任な、根拠なき『数字』ではなく、具体的な対策や技術の裏付けを伴うもの」であり、そのレベルも「国際的に遜色のない野心的な目標」だと自画自賛してみせた。

しかし、首相の言葉とは裏腹に、3つの大きな疑問が解消されていない。

@鳩山政権のトラウマ

その第1は、目標の達成には相当数の原発を稼働期間の原則(40年間)が過ぎても運転する必要があり、そこに国民的なコンセンサスがないことから、目標そのものの実現性に疑問符を付けざるを得ない点だ。第2は、国内の稼働原発がゼロになり、温暖化ガスの排出量が跳ね上がった2013年度を基準年とすることによって、2030年度までの削減率を大きく見せる手法がとられており、諸外国の理解と信頼を得られるか疑わしい点である。そして第3が、新しい目標が世界規模で見て実効性のある温暖化ガスの排出削減に繋がるのかという疑問だ。

国策としてみた場合、日本の温暖化ガス削減目標には、決定過程に大きな問題があったケースが2つある。最初は、「2008年度から2012年度までの期間中に1990年度比で6%削減する」という目標だ。1997年12月に京都で開かれたCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)の外交交渉の場で、議長国として取りまとめのために大幅な譲歩を余儀なくされ、国内での議論と検証作業のないまま、いきなり決まったものだった。この目標は、リーマンショックに伴う経済の停滞のお蔭で、かろうじて達成された。

2つ目は、「2020年度までに1990年度比で25%削減する」という目標だ。こちらは、首相就任を目前に控えていた鳩山由紀夫氏が2009年9月の都内の講演で突然表明したものである。やはり国家としての実現可能性の検証が抜け落ちていただけでなく、対外的なアピールが下手で諸外国から不当に低い評価しか得られなかった。鳩山氏は首相就任後、同案を正式に政府目標に格上げしたものの、東日本大震災の影響もあって、同じ民主党の野田政権時代に事実上撤回されるという論外の結果に終わっている。

これら2例に比べれば、今回の目標の策定過程は、かなりまともなものだった。今春の統一地方選で原発依存政策の復活という争点をクローズアップさせないために、策定スケジュールを大幅に遅らせた点を除けば、経済産業、環境両省が合同の審議会という議論の場を設けて7回の審議を行うなど、政府としてそれなりに誠実に各方面の意見を集約する努力をした格好となっている。

今回の目標は、サミットでお披露目した後、国内でパブリックコメントに付し、国策として正式に決定する予定だ。そのうえで、今年末にパリで開かれるCOP21で合意を目指す新たな温暖化ガスの国際的な削減目標の国別施策として、国連の事務局に7月にもファイルされる見通しという。

@原発再稼働だけでは足りない。となれば……

とはいえ、冒頭でも記したように、大きな疑問が残っているのも事実だ。

安倍政権はドイツ・サミットの直前になって、2段階で今回の目標をとりまとめた。6月1日に決めた「2030年度の望ましい電源構成(ベストミックス)」と、これを前提に翌2日に決めた「温暖化ガスの排出削減目標」である。

このうちベストミックスで見逃せないのは、2030年度の電源構成で原発が占める割合を20~22%と高めに設定したことだ。現在、原発の稼働年数は原則40年となっており、この原則通りに運用すると、建設中の島根原発3号機(中国電力)と大間原発(電源開発)を加えても、原発で発電できる電力は、政府がベストとしたキャパシティの(10650億kWh)の約15%にしかならない。

つまり、政府のベストミックスは、今なお国民的なコンセンサスを得られていない各地の原発の再稼働はもちろんのこと、さらにかなりの数の原発を稼働から40年という原発の原則運転期間を大きく超えて運転していくことが前提になっているのである。

一方、政府はベストミックスの算出の前提として、2030年度までに日本全体で本来必要な量の17%に相当する電力を省エネできると見込んでいる。この実現は、企業や家庭が厳しい省エネに取り込まなければならないものだ。

人口減少の影響次第だが、仮に原発の再稼働・運転延長と大幅な省エネのいずれか一方でも画餅に終わるようなことになり、ベストミックスが実現できなければ、温暖化ガスの排出削減目標の実現も不可能になる可能性は大きい。CO2などの温室効果ガスを大量に排出する石油や石炭の火力発電の追加活用が必要になるからである。

もう一つの疑問は、諸外国の理解と信頼を得られるのか、という問題だ。実は、今回の目標を、EUが基準年としている京都議定書と同じ1990年度基準に置き換えると、EUの2030年度に40%削減、米国の2025年度に14~16%削減に対し、日本は18%の削減にしかならない。米国が採用方針を打ち出している2005年度基準に置き換えても、EUの2030年度に35%削減、米国の2025年度に26~28%削減に対して、日本は2030年度に25.4%削減と欧米に見劣りする削減目標なのだ。

@官僚お得意の「数字のトリック」がここにも

そこで、安倍首相の指示を受けて、頭のよい官僚たちがひねり出したのが、2013年度を基準年にするという苦肉の策だ。これだと、EUの2030年度に24%削減、米国の2025年度に18~21%削減に対し、日本は2030年度に26%削減と意欲的な目標に見せかけられるというのである。

タネ明かしをすれば、2013年度は、東京電力福島第一原発事故を受けて、全国各地の原発が運転停止に追い込まれ、年間を通じて1基も原発が動かなかった年だからである。原発の代わりに、老朽化してエネルギー効率が悪く温暖化ガスの排出が多い石炭火力発電をフル稼働させたため、

日本の温暖化ガスの排出量が14億800万トンと前年度比で1.2%増、2005年度比で0.8%増、1990年度比で10.8%増加した年だった。

これでは、諸外国、特に途上国からみれば、日本の目標は「削減努力の水増し」とか「羊頭狗肉の削減目標」といった批判を浴びてもおかしくないだろう。

そして最後が、安倍政権がまさにそうしたように、COP21で採択される世界的な削減目標は、各国が自国の事情に合わせて自主的に策定する目標の総和にしかならない問題だ。様々な利害のある国々をCOPの枠組みから離脱させることなく、国際的な枠組みをまとめあげるための仕組みだったとはいえ、それぞれが勝手な目標を掲げるだけでは地球規模での温暖化ガスの排出削減に繋がる保証がない。

離脱した京都議定書の時とは違い、今のところ、意欲的な取り組みをみせている米国などは、その典型例だろう。1人当たりの温暖化ガスの排出量を見ると、2012年度に20.4トンと、日本(10.5トン)を大きく上回っているからだ。しかも、米国は総量の削減目標を対外的に表明したものの、国内では具体的な削減策をほとんど詰めていない。唯一の具体策は、CO2の排出の多い石炭火力発電を減らしていく構えをみせていることだが、それさえ、炭鉱労働者や電力会社労働者が強硬に反対しており、実現が危ぶまれている。

実効のある温暖化ガス排出削減には、ある程度の裁量を各国に与えざるを得ないとしても、予め一人当たりの排出量の国際的なガイドラインを定めて、何年以内に達成するといった、わかり易い共通の基準の下での目標が必要なはずである。
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