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家賃も光熱費もゼロで生きるモバイル生活とは?

★家賃も光熱費もゼロ。自分だけの独立国家で生きるモバイル生活とは?
***「週刊プレーボーイ 2015年02月12日記事」より転載

「モバイルハウス」とは、その名のとおり“動く家”のこと。基礎はなく、車輪がついているので移動が可能。最低限の居住スペースを確保しつつ、自然再生エネルギーなどを利用することによって、どこでも格安ライフを実現できるというシロモノだ。今、そんなモバイルハウスを自作する人が少しずつ増えているらしいのだが…その実態は!

■ホームレスの住居にヒント!

「2011年に僕が最初に建てたモバイルハウスは、幅1.5m、奥行き2.4m、高さ2.1mで、室内の広さは3畳ぐらいです。材料はすべてホームセンターで購入し、費用は2万6000円でした。家賃も敷金も住宅ローンも必要ありません」

そう話すのは、建築家で作家の坂口恭平さん。ホームレスの住居を研究していた坂口さんは、彼らの暮らしにヒントを得た「モバイルハウス」という新しい暮らし方を提案している。

建築基準法における建築物とは、(1)屋根がある、(2)壁または柱がある、(3)土地に固定されている、という3つの条件を満たしているもの。

モバイルハウスには車輪がつけられ、土地に固定されていないので建築物とは見なされない。だから、固定資産税もかからない。また、車輪がついていて道路交通法では軽車両になるが、実際に道路を走らせるわけではないので、車検や自動車税も不要だ。

坂口さんは、製作したモバイルハウスを東京・吉祥寺の駐車場に置いて暮らし始めた。そこで“住むこと”についての定義が法律のどこを探しても見つからないことに気づく。人が寝たら、そこが住居なのか? 車で寝たら? 水道・電気・ガスが接続されていたら住居なのか?

そうした定義がないなら、誰でも自分たちで住む場所を“つくれる”というわけだ。ちなみに、住所があってポストに名前が書いてあれば郵便物も届く。また、駐車場でも住民票は置ける。

■モバイルハウスに暮らしてみる!

「家賃0円、光熱費0円、水道代0円、モバイルハウスの製作費は約7万円でした」

そう話すのは、ミュージシャンの高橋雄也さん(24歳)。都心から電車で約1時間の距離にある山梨県上野原(うえのはら)市で暮らしている。

実際にはモバイルハウスを置く土地を借りるのに月2000円払っているそうだが、それにしても生活にかかるコストは限りなくゼロに近い。

高橋さんは東日本大震災をきっかけに、自然と共存する社会の可能性や暮らし方を考えるようになった。その時に出会ったのが、前出の坂口さんの著書『独立国家のつくりかた』(講談社・12年)だ。

「坂口さんが提唱するモバイルハウスに興味を持ったんですが、実際に暮らしている人がいるのかわからなかったので、自分でやってみようと思ったんです」

さっそく大工職人の友人たちとモバイルハウスづくりをスタート。条件は、移動できることと、駐車スペースに収まること。一般的なワンルームの広さを参考に、利便性を考慮してロフト付きにし、実際の広さは6畳ほど。

しかも、ボルトとビスを使って「分解できる家」にした。組み立てと分解は半日で可能で、2tトラックに積むことができる。

製作日数は約20日間。大学を卒業した14年春から暮らし始めた。生活に必要な電気は照明、iPhoneの充電、オーディオなので、約4万円かけて50Wのソーラーパネルと30Ahのバッテリーでソーラーシステムを組んだ。

「調理は、室外で薪のロケットストーブ、室内でカセットコンロを使い、水は近くの温泉に行ったときに湧き水をくんでおく。20Lのタンク2個、5Lのペットボトル1本で、3、4日はまかなえます」

トイレは近くのコンビニや出かけた先で済ませる。いずれはコンポスト(バイオ)トイレを設置したいそうだ。

ところで、実際に暮らしてみて、困ったところはないのだろうか?

「都会暮らしと比べるとストレスがゼロで、今はプラスしかないほど快適。自然に囲まれ、温泉に入れて、近所の人も新鮮な野菜を持ってきてくれたりする」

今後は物置用モバイルハウスの増築や、軽トラに積んだモバイルハウスで移動カフェを開くプランもある。高橋さんは、モバイルハウスの快適さをもっと多くの人に知ってもらいたいという。

女性ながらモバイルハウスで暮らす人もいる。

アルバイトの井ノ上裕理(ゆり)さん(28歳)は、神奈川の大学を卒業後1年で脱サラして鹿児島へ移住。ひとり暮らしをしようと思ったときにアパートの家賃が高いことに気づき、モバイルハウスに住むことを決意。

友人たちと「ルツボックス」と名づけたモバイルハウスをつくり、12年10月からの約500日間をそこで暮らした。もちろん、家賃、電気代、水道代は0円だった。

「最初はルツボックスを職場の駐車場に置かせてもらって、しばらくしてから民家の庭先を借りました。どちらも月3000円でした」

駐車場で暮らしていた頃は、近所の子供たちがのぞきに来たり、車の出入りの音が気になったり落ち着かなかったというが、民家の庭先に移動してからはプライバシーも確保され、快適だったと振り返る。トイレや水道は、職場や庭先を貸してくれた民家のお世話になった。

「実際に暮らして一番大切だと思ったのは水の確保。20Lのタンクを設置したキッチン設備があったんですが、タンクが重くて入れ替える作業も大変でした」

調理はカセットコンロひとつ。ご飯を炊いて、自家製の漬物をおかずにした。また、水が節約できて洗い物が簡単な蒸し野菜もよく食べたという。冷蔵庫は使わなかったので、室温が高くなる4月から10月は食材や料理の腐敗に気を使ったが、冬は室温が2~5℃になるので2、3日分の保存も可能だ。

「(モバイルハウスを)そろそろ次の人に譲ろうと思って呼びかけたら、声をかけてきたのがみんな女性だったのには驚きました。そのうちのひとりが今は暮らしています。私はアパートに移ったんですが、天井が高くて落ち着きませんでした(笑)」

井ノ上さんは、約500日間のモバイルハウス生活で、寝る場所は最低限でいいと実感したという。あとは江戸時代の長屋みたいに共有スペースをシェアできる仲間が欲しい。もし次にモバイルハウスで暮らすなら、そういう仲間と村をつくりたいと話す。

■軽トラに載せて機動性もアップ!

モバイルハウスは移動が可能だといっても、そうそう気軽に運べない。そこで考えられたのが、軽トラックの荷台にモバイルハウスを載せてしまう方法だ。

千葉県匝瑳(そうさ)市に拠点を置く形川(なりかわ)健一さん(46歳)は、海上自衛隊の任務でアフリカのジブチ共和国に行った際、日本の暮らしとのギャップにショックを受けたという。

12年6月の帰国後は、どういう生き方が幸せなのか考えるようになる。今の仕事や暮らしに疑問を持ち始めた形川さんは、千葉で農作業を手伝うようになって、買ったばかりのBMWを売って新車の軽トラを購入する。

「ちょうどその時(前出の)坂口恭平さんのドキュメンタリー映画『モバイルハウスのつくりかた』(12年)を見たんです。これを軽トラに載せたら機動力もあるし、飲んだ後はそこで寝れば飲酒運転対策にもなると思って(笑)」

翌年1月に完成した「モバハウス1号」の製作費は約2万円。秋にはさらに快適性を追求した「モバハウス2号」を製作。ところが、地上高が3m近くになり、重さも200kgになって積み下ろしの大変さや走行中に風にあおられることが判明。今度は、自分の体の大きさや視線の高さ、使い勝手などを考慮し、床下収納もつけた「モバハウス3号」を完成させた。

キャンピングカーとの大きな違いは、あくまでも荷物であることから改造申請が不要なところ。また、ひとりで積み下ろしできる仕組みにすれば、宿泊場所でモバイルハウスを降ろして、軽トラとして車を活用することもできる。

モバイルハウスを提唱している前出の坂口さんが言う。

「家という空間を極限まで広げ、都市空間全体を生活要素ととらえればいいんです。トイレ、水場、コインランドリー、コンビニはたくさんあるし、図書館や公園など公共施設をもっと活用すればいい。ホテルのラウンジやカフェは冷暖房完備でフリーWi-Fiもあり、電源も使えるようになってきました」

都会の駐車場でも、自然が豊かな場所でも、移動式の軽トラ式でも実際にモバイルハウスで暮らしてみるにはかなりの勇気が必要。

でも、そのハードルさえ乗り越えられれば、もう毎月のバカ高い家賃を払わなくても済む…。思い切ってチャレンジしてみる?

(取材・文/新井由己)
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