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吉森康隆さんの意見陳述書

★陳 述 書 : 2016 年 2 月 5 日  佐賀地方裁判所 御中  

住所:佐賀県唐津市       
氏名:吉森康隆

1. このたび、本法廷において意見陳述の機会をいただきました吉森康隆と申します。 68 歳です。1947 年吉森養蜂場創立の年に生まれました。 唐津市の山手に住んで、この 40 年間養蜂業を生業とし、生計を立ててまいりまし た。食べ物を作る、いわば第一次産業の立場からプルサーマルを含む、原子力発電に ついての私の思いをこの機会に述べさせていただきます。
養蜂場ではさまざまな蜂蜜を取り扱っています。春から夏にかけて菜の花、れんげ、 みかんの花や自然林の花、つまり樹木の花からミツバチは蜜を集めます。循環する農 業と里山によってこの仕事は支えられておりますが、一方、花粉交配によって農業を 支えている、とも言うことができます。つまり農業とは共存共栄であるということで す。近年環境破壊や農薬の影響によりミツバチは減少していますが、ミツバチの飛び 交う環境は、人間にとっても住みやすい環境である言って良いと思います。 私の仕事はこの緑の環境と水と農、それらを土台として成り立つものです。 日々の作業を続けながらこの地域が持続可能であり、この仕事がこの先も続けてい けるよう願いながらの毎日です。 東京電力福島第一原発事故では、その自然と農が壊されてしまいました。事故から 5 年が経とうとする今も、又、この先何十年にもわたって放射能の被害は続く事でし ょう。

2. 私の働く現場から玄海原発が見えています。経済、そしてエネルギー優先の光景が、 棚田という、人が遠い時間をかけて作りあげてきた風景の向こうにそびえたっていま す。 福島原発事故後、福島では野菜農家が自ら命を絶ちました。そして私と同じ畜産農 家のひとりもまた同じ運命を辿りました。同じ食べ物を作る立場である私にとって他 人事とは到底思えません。直接的には我々農家が影響を受けることになるのでしょう が、その影響は食べ物を通して日本のみならず世界中に広がってしまうことになりま す。 食べ物によって取り込まれた放射能はその種類によって体の各部位に蓄積します。 放射能を含んだ落ち葉がそこにあったとしても通り過ぎれば、その場では被曝は少な くて済むかもしれませんが、放射能がいったん口や鼻から体に取り込まれると、一定 期間体のその場にとどまり、至近距離で放射線を出し続けます。 放射線が染色体や体の細胞を傷つけ、さまざまな疾患の原因になることは今や広く 知られているところです。子供たちへの影響は大人の数倍とも言われさらに重大さを 増して行くことでしょう。

3. 1986 年のチェルノブイリの事故後、日本のさまざまな食品流通機関により放射能 が水際でチェックされていたのを、我々は忘れていません。 風や水といったものだけではなく、市場原理によっても放射能は拡散することを 我々は見てきました。汚染食品が安く買い叩かれ流通してしまうこともありうること でしょう。産地が偽装されたり隠されたりしていた事実も報道されておりました。 さて日本での現状はどうでしょう。 水道水は福島原発事故前の放射線量が、0.00004Bq/L(※)だったのに対し、 10Bq/L(25 万倍)が基準とされ、お米は事故前の放射線量が0.0124Bq/L だ ったのに対し、事故後100Bq/L(8300 倍)が基準だと、国民が知らないうちに決 められていました。こんな状態で毎日の買い物ひとつにも産地は一体どこなのか、と 神経質にならざるを得ません。 命を軽んじた経済復興に何の意味があるのだろう、というのが私の率直な思いです。

4. 最近、仕事での技術交流のためアジアに行く機会を得ました。印象深かったのは日 本にも影響が及んでいる大陸の公害の霞がヒマラヤも覆い隠すほどアジア全体を覆 っていることでした。翻ってわが国の福島原発事故の対処、その後のあり方に思いが 及び呆然としました.福島では多くの放射能が太平洋に落ちました。偏西風を通じ、 又海流を通じて他の国に迷惑をかけ続けているのが現状です。他の国をとやかく言え る立場ではありません。

5. 玄海原発で事故が起きれば、私の生きる基盤である唐津の海、山、大地は奪われて しまうことでしょう。私はこれからもみつばちを伴侶として暮していけるよう願って います。地道に農に生きる者の人格権をどうぞ守ってください。
私は今、司法のみがこの国を立て直すことができると信じています。どういった力 にも影響を受けず歴史を立て直す判断の力です。それは生命の側に寄り添った、やさ しくも力強いものに相違ありません。 自然と農、すなわち命のための判断を下されるようお願いして、陳述を終わります。

(※)セシウム 137 の値。福島原発事故前は明確な基準値がなく、全国の食品のセシウム平均値が示されている。
事故後は厚生労働省の平成 24 年度基準値。 出典:日本分析センター平成 20 年度事業報告書 http://www.jcac.or.jp/uploaded/attachment/57.pdf
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