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没後8年、今こそ清志郎ソング

★没後8年、今こそ清志郎ソング 反戦反核「予言」リアルに
***毎日新聞2017年5月10日 東京夕刊紙面掲載記事

季節が巡ると、あの歌声が聴きたくなる。日本ロック界のカリスマ、忌野清志郎さんが亡くなったのは8年前の5月2日だった。反原発ソングだけではない。反戦反核の詞は、北朝鮮が挑発を続ける現代と重なる。今だから言いたい。あなたは「予言者」だったのか、と。【鈴木梢】



 まるで「戦争前夜」のような重苦しい空気が、この世界を包む。その一角。日本のコンサート会場で聴衆の耳をつんざいたのは、核戦争の恐怖を描いた反戦歌「明日なき世界」だった。
 <東の空が燃えてるぜ 大砲の弾が破裂してるぜ><世界が破滅するなんて嘘だろ>
 4月末、宮城県川崎町で開かれたライブイベント「カバーズ2017」に出かけた。東北の地はまだサクラが咲いて華やいでいるのに、世界にはきな臭さが漂う。北朝鮮は核・ミサイル開発を諦めず、米トランプ政権は「力による平和」を押し出している。
 清志郎さんが率いたロックバンド「RCサクセション」は1988年、洋楽のヒットナンバーをカバーして意訳し、反戦、反核、反原発のメッセージを込めたアルバム「カバーズ」を発表している。この日のライブではアルバムに収録された全11曲が披露された。1曲目が「明日なき世界」だ。
 ライブには、RCのギタリストだった盟友「チャボ」こと仲井戸麗市さんや、清志郎さんの告別式で弔辞を読んだ甲本ヒロトさんら、当時のバンドメンバーや影響を受けた音楽家が集まった。仲井戸さんはステージ上で語った。「この2017年にこの作品をやる意味合いを感じている。清志郎君は言葉の自由をたくさん探した。唇の自由をだれも奪えないんだ」
 「カバーズ2017」は、01年に始まったロックフェスティバル「アラバキ」の目玉イベント。清志郎さんは喉頭がんの闘病から復活した08年、このフェスティバルに参加した。09年に58歳で亡くなり、一周忌の命日には清志郎さんの名曲選が演奏された。翌11年、宮城県など東北の沿岸部を東日本大震災の津波が襲い、東京電力福島第1原発事故が起きた。
 清志郎さんによって「明日なき世界」がカバーされたのは、米ソの冷戦期だった。それが今になって、現実味を増している。新潟市から伊藤旺佑ちゃん(4)を連れてきた母いづみさん(34)は「この子は4歳にして、テレビでこの曲を知り、気に入って歌っている。今聴く意義を感じるし、子供の世代にこそ大切な歌です」と話した。会場のスクリーンには、こんな問いが映し出された。
 <アルバムの作者であるその男が今ここにいたら、何と歌うのだろう>
 作家の吉本ばななさんは、この問いに答える。「早すぎたあのアルバムと同じことを歌われるのではないかと思います。逆に言うと、もう十分遺(のこ)してくださっているのです」。吉本さんは清志郎さんの大ファン。評論家の父隆明さんとも一緒に清志郎さんのライブに通った。
 反原発ソング「サマータイム・ブルース」が収録されているカバーズは、東芝EMIから発売予定だったが、中止された。親会社の東芝が原子炉を製造していたのが理由とされ、アルバムは別会社からリリースされた。20年以上たった東日本大震災で原発の安全神話は崩れ去り、この歌は「警告」として再評価される。
 そして今、その東芝は米原発建設などで債務超過に陥り、存続の危機にさらされている。著書「耳をふさいで、歌を聴く」の中で「清志郎論」を展開した文芸評論家、加藤典洋さんは「まさにアリの一穴です」と切り出した。
 「東芝崩壊への最初の一歩が、あの発売中止だったと思う。健全な批判を受け入れられない企業文化に対し、清志郎はユーモアを持ち合わせた本物の抵抗者だった。権力や金だけでなく、世間一般のいわゆる『善き価値観』も軽々と笑い飛ばしました」
 カバーズだけではない。清志郎さんは「君が代」を派手なパンクにして歌い、「あこがれの北朝鮮」という曲では「北朝鮮で遊ぼう」と皮肉ってタブーを排した。歌以外に今注目されているのが、00年に清志郎さんが書いたメッセージ。今読み返すと、思わず息をのむ。
 <地震の後には戦争がやってくる。軍隊を持ちたい政治家がTVででかい事を言い始めてる。国民をバカにして戦争にかり立てる>
 この文章は、音楽への愛や社会への怒りを語った自著「瀕死の双六問屋」に収められ、ファンの間では「予言」とも受け止められている。「こんな時代になるとは、だれも思っていなかったでしょうね。だからこそ、今、清志郎の得難さをありありと感じる」。加藤さんはそう嘆き、米社会と日本を比べる。
 「アメリカではボブ・ディランがノーベル文学賞をもらい、ほどなくしてトランプ政権が誕生した。片やトランプ、こなたディランだから、均衡が取れてまだ安心なんです。でも、日本には安倍(晋三)首相の対極に、もう清志郎にあたる存在がいないんですよ」
 だが、清志郎さんの歌は生きている。吉本さんはそこに希望を見いだす。「ひとりの人が一生を通じていい音楽を創った。それは残ってしかるべきものだと思うし、これから生まれる世代にも聴き継がれていきます。清志郎さんは考えていることをそのまま生きるということを見せてくれた人です。私は少し歳(とし)が下なので、彼の後を継いでいかなくてはいけない、同じように若い人たちに『こういう大人もいる』ということを見せ続けなければいけないな、と思います」
 <天国は無い ただ空があるだけ 国境も無い ただ地球があるだけ>
 東北のライブはジョン・レノンの「イマジン」で締めくくられた。舞台に立ってマイクを並べたのは、いずれも広島県出身の奥田民生さんと吉川晃司さん。カバーズは当初、広島に原爆が投下された8月6日に発売されるはずだった。清志郎さんはイマジンに独自の歌詞を付け加えている。
 <ぼくらは薄着で笑っちゃう ああ 笑っちゃう>
 憲法で戦争放棄を掲げる日本の軽武装を<薄着>と表現し、軽やかに笑おうと呼びかけるのが清志郎さんらしい。会場は大合唱。全ての演奏が終わり、スクリーンに映し出されたのは清志郎さんのピースサインだった。改めて、清志郎さんが00年に発した「予言」の続きをかみ締めた。
 <この国の憲法第9条はまるでジョン・レノンの考え方みたいじゃないか? 戦争を放棄して世界の平和のためにがんばるって言ってるんだぜ。俺達はジョン・レノンみたいじゃないか。戦争はやめよう。平和に生きよう。そしてみんな平等に暮らそう。きっと幸せになれるよ>
 清志郎さんの命日の翌3日は憲法記念日。この日、安倍首相は「20年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べた。再び東京で五輪が開催される前に、憲法を改めるかどうか<僕ら>が決めることになるのかもしれない。
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