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19.瀬の本高原

 十月初旬、仕事で瀬の本高原を訪ねた。博多から日田、日田から杖立へと乗り継ぎ、迎えに来て下さった相手先の車で小国を経由し、瀬の本へ向かう。なだらかにうねった高原は薄(ススキ)に覆われ、他の樹木に先駆けてドウダンツツジが鮮やかな紅葉を見せ始めている。薄の原というと不毛の地を意味するように思われがちだが、薄は牧草や茅葺き屋根の材料となる有用植物で、久住や阿蘇では太古の時代から定期的に草刈りがおこなわれ維持されてきた風土景観であり、観光資源ともなっている。これから穂が膨らみ銀色に輝くようになると、山肌も深くあたたかな色に染まりはじめる。遠くに白い煙が見えるので尋ねてみると、来年の春先おこなう野焼きの準備のために周縁部を焼いているのだと教えて下さった。まもなく赤い屋根の三愛レストハウスが見え、車はここから少し上った「やまなみハイウェイ」と筋湯温泉方面へ向かう道路の分岐点(「筋湯温泉口」)に着いた。標高1050~1100m程のこの場所から眺める阿蘇五岳や瀬の本高原は、東から南、西へと展開し、ため息が出るほどだ(近くに、絶景を詠んだ与謝野鉄幹・晶子夫妻の歌碑が建っている)。国立公園区域内にあるこのエリアでは、一定条件のもとに特別に事業地としての整備が許可され、二年前からひとつの「ヴィラージュ」(むら)が建設されている。僕がこのプロジェクトにランドスケープデザインの立場から参画することになったのは建設が始まる一年前だった。植生や地形、景観についての調査、「ヴィラージュ」全体の構想、誘致施設の配置計画、外部空間の設計監理と関わることになり、現在オープンしているケーキショップ、ホテル、温浴施設、エステ、陶芸工房、美術館、旅館の利用者も多いようだ。「ヴィラージュ」建設のディベロッパーでもある相手先の子会社が経営する温浴施設に二泊して、隣接地に誘致予定の施設の配置プランを作成するのが、今回の仕事である。この温浴施設は、ラウンジと雑木を中心とした中庭、離れ形式の家族湯(源泉かけ流し)から構成されていて、広さや仕様の異なるどの離れからも阿蘇や雑木林の風景が楽しめる。今回の打合せを済ませたあと、スタッフの人たちに中庭の修景の仕方について実地指導をおこなった。陽が落ちると、山は冷え込む。食事を済ませ、用意してもらった離れに入り、風呂に浸かった。無色透明でなめらかな湯質で切傷に効能があるらしい。早めに床についたせいか夜中に眼が覚め、デッキテラスに出てみると黒い天蓋に大粒の星が輝いていた。朝湯に入るとガラスの向こうに雲海に浮かぶ涅槃のような阿蘇五岳が見えた。ちょうど二年前の今頃、僕はケーキショップの庭づくりの監理をするために、近くのユースホステルに連泊していた。開店の日が迫る中、颱風が次々と襲来し、雨や霧の日が続いて現場の作業は難航した。颱風の猛烈な風で地上の小石が巻き上げられ飛んでくる。建設中の建物のガラス面をベニヤ板で養生し、颱風が過ぎるのを待つ。現場の火山灰土が霧でぬかるみ、石積みや植栽は手間取り、苦労した。なんとか工事が終わり、福岡に帰る夜、現場監督が熊本まで送って下さった。深い霧の中を、道を熟知している監督は普段の速さで車を走らせた。突然ブレーキを踏んだ車の前方に、二頭の大きな鹿の姿が見え、すぐに見えなくなった。生まれて初めて見る野生の鹿だった。開発されていく森から餌を探しに移動していたのかも知れない。湯船に浸かって眼をつぶっていると、そんなことが思い出された。朝食の前に附近を歩いてみると、夜露に濡れた草むらにシオンやアキノキリンソウ、ミズヒキ、オオマツヨイグサなどが可憐な花を付けていた。こういう場所での花のガーデニングは都会とはちがって、土地に見られる野の花などを主体にして考えるべきだと思う。三種類ぐらいの野草を手折ってラウンジの女性に渡すと、適当な花器に生けて飾ってくれ、その気持ちのよい対応が僕は気に入った。二日目は昨晩考えた配置プランを清書し、現場でイメージスケッチを起こすことにした。思い描く建築や庭が、現場の風景の中でどのように見え隠れするか、隣接する空間とどのように繋がっていくかを考えてみる。平面図では把握できない風景を現場で捉えることは大切なことで、作業自体も大変愉しいものである。うららかな日和にこういう場所で好きな仕事ができることに深謝。テラスから東の方に見える久住へ続く山塊は、紅葉が進むにつれ、その夕景が美しい。「季節や日、天候によって様々に変化する風景に飽きることがないですよ」と、スタッフの人たちは口を揃える。五月連休頃の新緑、冬のモノトーンの世界もまた魅力的である。黒川や湯布院とは違った、スケール感のある風景に対峙し包まれる開放感が瀬の本にはある。広大な風景の中に溶け込み、眺望を満喫できるゆったりとした空間づくりはもう少し続きそうだ。みなさんも、ドライブの途中ぜひ立ち寄ってみてはいかがですか。








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