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12.福島~東京みてある記(続)

 Nさんと入った向島百花園についてもう少し説明を加えておくと、この施設は江戸の町人文化が花開いた文化・文政期(1804~1830)に、佐原某という骨董商が、交遊のあった文人墨客の協力を得て開園したものらしく、当初は梅が主体だったらしい。昭和13年に東京市に寄付され、翌年より有料公開されるようになった。昭和53(1978)年、文化財保護法により、国の名勝・史跡に指定されている。僕は仕事の関係もあって、植物園などは福岡にかぎらず、あちこち出かけた先でよく訪ねてみるほうだが、この百花園には珍しいものがいくつかある。例えばクズ、ミツバアケビの棚。クズは確かに秋の七草ではあるが、繁茂する力が強く迷惑がられる風潮がある。一方、アケビは山に行かない見られないものだ。身近な植物、珍しい植物が花を愛でるという同じ視点から、同列に選ばれているのがよい。四季折々の催しもさかんなようで、隅田川七福神めぐりのコースに入っていたり、大輪朝顔展、虫ききの会、月見の会、お茶会など風流な催しも多い。
 地元、京島育ちのK子さんに道案内をお願いして、下町散策が始まった。前回も書いたように、墨田のまちづくりセンターで手に入れたロジコミ京島というマップには、楽しいイラスト入りで長屋、路地、商店街などが紹介されていて、外から訪れる人にもわかりやすい。Nさんに聞くところによると、こうした京島や葛飾あたりというのは、正しくは「川向こう」とでも呼ぶべき地域で、本来の下町とは違うらしい。しかしながら、時代と共に姿を変えていく東京の中にあって、これらの地域に下町的な情緒が残されていることは紛れもない事実である。マップには、こんなことが書かれている。「明治から大正にかけ、京島のまちは、押上方面の生活関連諸工業の発展とともに徐々に形成され、関東大震災前後の時期に最も急激に長屋建てのまちがかたちづくられていった。そのため水路や農道跡のギザギザなかたちのまま路地が形成された。大正12年の南葛飾郡誌には、〈東京市はその北部郊外、西部郊外のいずれよりも、その隣接せる本所、深川区を通じてここに工業の発展地を求めたのである。工場の建設は多数労働者の移住を伴うから労働者の居住地がここに現出する。(中略)斯くて大きな工業と小さな商業と低い生活とは、ここに入り乱れて存しているのである。此地域は従前は東京郊外の農村で、殊に水田が大部分を占めて居ったのであるが、今は此等の田は漸次埋め立てられて大部分工業敷地に変換せられた。〉」
 僕たちは、京島地区の骨格をつくっている二つの通り、「たから通り商店街」と「キラキラ橘銀座商店街」を歩いてみることにした。前者は昭和23年、後者は昭和2年に設立されている。商店街から脇へ入ると、たくさんの路地が複雑に入り組み、地の人でなければ迷ってしまいそうだ。面白いものを見つけては闇雲にカメラにおさめながら、二人についていったせいか、あとでデジカメの画面を振り返っても、どこのあたりか判別できないでいるが、印象に残ったものや風景をいくつかあげてみる。最初に見つけたのは銭湯の煙突。少し離れて二つの銭湯がある。曳舟湯という旅館の造りに似た、築地塀付き、数寄屋風建築の銭湯は、なかなか渋い。こういう銭湯にいつか、入ってみたい。もう一つの銭湯は電気湯。僕が幼少期に入っていた久留米の電気湯は、脱衣場の照明が明るかったが、名前の由来はそういうところかと、二人に話すとウケる。昭和二十年、住民の必死の消火活動で延焼を免れたのか、今も現役の木造二階建の長屋があちこちに残る。物干しやプランターの緑が、古びてはいるが、活力のある街並みに似合っている。路地のかどかどには、今も手漕ぎポンプの井戸が残っていて、住民の憩いの場となっている。こういう場所を見ていると、記憶の中にある風景が立ち上がってくる。密集した居住地の壁にバケツがいくつも掛けられており、Nさんが「今でも主婦達が中心になって消火訓練をしていますよ」と、教えてくれた。京島には惣菜屋さんが多く、たくさんの、安くておいしそうなお惣菜が、通りに張り出した台やケースに並べられる。野菜もとにかく安い。ドロネギ大束百円というのには驚いてしまった。手作りカステラを売っている店の看板の絵も手作りだ。挿絵画家、沢野ひとしのようなヘタウマっぽい絵が、界隈のあちこちに姿を見せる。銭湯の帰りに、立ち寄って焼き鳥を買う人、小分けした刺身を買うお年寄り、こどもたちの歓声。そのうち、日本のあちこちの町で消えていきそうな昭和のまちのたたずまい。この夜、僕は二人の仲間達と再会し、下町への思いを肴に食事を楽しんだのだった。
 









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