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15.船のある風景

 少し遅れて北部九州も梅雨に入り、朝倉市の黒川集落あたりでは蛍が舞い始めているらしい。前回書いた地行の仕事はひとまず落ち着いたが、まだ身体の芯に疲れが残っている。五月が終わろうとする頃、その仕事先の人達に誘われて、日田の「川開き」祭りに出かけた。老舗旅館が並ぶ三隈川沿いに、たくさんの屋形船が繋がれていて、陽が沈むころになると川の沖合いに出て、並んで錨をおろす。料理をつつきながら花火が揚がるのを待っていると、(観光用の)鵜飼舟や祇園囃子の船が、そばまで廻ってきた。少し年配の者はこういう時、お祝儀を渡す。横笛を吹いている奏者が目で礼を言う。二十年ほど前、原鶴温泉あたりで鵜飼を愉しんだことがあるが、聞いた話では、鵜飼漁で生計を立てているプロは一人しかいないという事だった。その時代の原鶴の素朴な風情もよかったが、天領日田の優雅な舟遊びもいい。特に、祇園囃子の音色は味わい深い。まもなく花火が打ち上げられ、川岸から喚声があがり始める。嵯峨菊のようなかたちをしたプラチナ色の花火が、計算された間隔で、バチバチと次々に重なっていくのが特に印象に残った。
 梅雨どき、川の匂いが濃くなると思い出すのが、むかし観た映画「泥の河」である。1981年、宮本輝原作、小栗康平監督の作品。廓船に住む少年、姉と友達とのひと夏の出会いと別れが白黒の端正な画像の中に描かれている。登場するランニングシャツ姿の少年たちや田村高廣、加賀まりこの演技が昭和三十年代の空気をよく伝えていて、懐かしく、切ない。学生時代に雑誌で見た「伊根の舟屋」にしろ、香港で見た水上レストラン(屋形船)にしろ、船で暮らす人たちの風景には、どこか惹きつけるものがある。三年ほど前、福岡市の博物館で催された企画に「ドンザ展」があった。漁師や農民が着る刺子の野良着のことを「ドンザ」と呼ぶが、その民俗学的な解説やデザインのバリエーションがとても興味深かった。瀬戸内海の淡路島や小豆島では、次第に洗練されたデザインのものが増えていったようで、実用というより美術工芸的な価値へと変化している。瀬戸内海の漁師のなかには、噂を聞いて家族で五島列島へ向かい、そこで鯛漁をするものもいたという。五島に移り住んだ漁師の妻たちは、五島の妻たちと刺し子の意匠を競いあったらしく、また、遭難した時の身元判別の意味からも、符号となる模様をいれていたという。そのあたりの話は、フィッシャーマンズ・セーターにも通じている。岩波書店から出ている「水辺の生活誌 船に住む漁民たち」を、最近読んでいる。昭和三十年ごろの尾道、吉和漁港を基点に、漁をしながら一年の大半を海上で過ごす家族の姿が、豊富な写真とともに記録されていて、読み応えがある。



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